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「……てか最後のアレ、なんて言ってたんだ?」
「Пока 〈パカー〉。ロシア語で『またね』とかバイバイとか、そういった意味です。この場に生粋のロシア人はいないのに、どうしてああも意味のわからない事をするのでしょうね」
「ホント、父親相手に容赦ないなお前」
「あの人にはこれくらいがちょうどいいんです。……で、どうしますか?」
「どうするって?」
「この後の予定です。すでに断りの旨を伝えてしまいましたが、今は時間がだいぶ余ってしまいました」
蔡未と同じように、携帯で時刻を確認する。
約束の時間はとうに過ぎているが、出かけるにはまだ全然余裕がある。それどころか、お互い遅刻しただけ、と言っても良いくらいの誤差。
「……そうだな。遅れはしたけど、今から本来の目的を実行するとするか」
その提案に、蔡未は納得したように小さく頷いた。
地元から電車で数十分。
街に出向いた宗太と蔡未は、ひとまずあちこちをブラブラ歩いてみることにした。
目についた店に入ってみたり、食べ歩きをしてみたり。別に特別な事はなにも起きなかったが、二人にはそれで十分だった。
唯一、例外があるとすればーー。
「あ〜、ちょっといい? 君、モデルの仕事とか興味ないかな?」
「いえ、私はメイドなので、それ以外の事には興味ありません」
蔡未はそう言い置いて、道端のスカウトマンを華麗にいなす。
と、その矢先。
「ねぇねぇ、そこの彼女! すごい美人さんだね〜、よかったら俺とお茶でもしない?」
「いえ、私はメイドなので、見知らぬ人とお茶したりはできません」
(いや、てかさっきから俺隣にいるよね? 相手の視界から完全に消えてんの?)
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