36人が本棚に入れています
本棚に追加
今日の蔡未はいつもとは違い、私服姿に身を包んでいる。
だからなのか、声をかけられる頻度が尋常ではなかった。おまけに、道行くあらゆる人が、蔡未をチラ見しては種々雑多な反応を見せている。
「……今日は不思議と、よく声をかけられますね。いつもはこんな事はないのですが……やはり、メイド服を着てないからでしょうか?」
不安げに、自分の姿を一望する蔡未。
が、それは明らかな勘違いだった。メイド服を着てないからこそ、今の状況が起こり得ている。
まるで芸能人が街中を歩くかのように。全身に清楚という名の粒子をまとわせ、意図せずとも目立ってしまう存在。
「なんか、あらためて驚きだな」
「なにがですか?」
「格好の話。蔡未の私服姿って、今まで見た事なかったからさ」
「これはお嬢様が用意してくれた物なのですが、自分では似合っているかどうかイマイチわからないのです。一応、コンセプトはイケイケ女子らしいのですが」
「いや、超イケイケだよ。イケイケすぎて、それ以上の服装は考えられないくらい」
「そこまで褒められると、なにかしらの意図を感じてなりません。もしや、私からメイド服を奪おうという魂胆ですか?」
なぜか疑心暗鬼になる蔡未。一応、本心なのだが、少し言葉が足りなかったかもしれない。
宗太は考え抜いた末に、蔡未が納得しそうな理由を補足することにした。
「お前以上にメイド服が似合うやつを俺は知らない。でも……たまにはそういう格好になってみてもいいんじゃないかって事だ。せっかく、鳳さんが用意してくれたんだからさ」
「……そうですね。こうした格好になるのは久方ぶりですし、私もこの状況を素直に楽しみたいと思っています」
「この状況?」
「デート、ですよ」
最初のコメントを投稿しよう!