第14話 思ったようにいかない。ゆえにメイドは自らの環境に苦悩する

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ティーカップのフチを三本指でつまむと、蔡未はコーヒーを静かに口に運ぶ。 それに続く形で、カップに口をつけたところでーー唐突に、蔡未が思い出すように言った。 「……そういえばさっき、店に入る前になにか言おうとしてましたよね? あれはもしや、今朝の事を訊こうとしていたのですか?」 「……」 舌先に感じるじんわりとした苦味。それは徐々に広がっていき、やがて口の中を苦味という名の膜で覆ってしまう。 そしてカップを机の上に置くと、宗太はゆっくりと首を縦に動かした。 「そうですか。いえーー気になるのも当然です。もし私が逆の立場なら、きっと同じ事をしていると思いますし」 「まぁ、実際見ちゃったわけだしな……気にならないと言えばウソになる。けど、言いにくいようなら無理に言わなくていいぞ?」 「別にそういうわけではないのですが……。それよりも、単純にこれはメイドとしてどうなのか、という気持ちが勝ってしまいまして」 「どういう意味だ?」 「一流のメイドは、安易に私情を表に出さないものなので」 「……今はメイド服も着てないし多少、基準が甘くなってもいいんじゃないか?」 蔡未の信念が強い事はわかりすぎるくらいにわかっている。 が、時にそれが障害になる時もある。少なくとも今がそのタイミングで、それを崩さない事には真実にはたどり着けないのだ。 「……たしかに、宗太さんの言う通りですね。メイドとしての心意気も大事ですが、たまにはそうでない時があってもいいのかもしれません」 真剣味を帯びた表情で、蔡未が紺碧の海のような瞳を向けてくる。 それを確認すると、宗太は備えつけのスティック砂糖をコーヒーの中にぶち込んだ。 そうして準備を万端にした状態で、続く蔡未の言葉を真正面から待ち構えるために。
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