第14話 思ったようにいかない。ゆえにメイドは自らの環境に苦悩する

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「誰かに尽くすというのは、相手が離れないための手段でもあります。当たり前のように側にいて、なにかをしてくれる存在。その高みにいるのがメイドという存在であり、私もそうなりたいと思った」 「でも、それだとまるで……」 「お嬢様を繋ぎ止めるためにメイドになったんじゃないか、ですよね? それは半分正解で、半分間違いです」 「そうなのか?」 蔡未は小さく頷くと、人差し指でティーカップのフチを上から下になぞっていく。 「自分が孤独にならないために、私はお嬢様のメイドになった。そこは合っていますが……その考えは今では完全に崩れています。今の私が望むのはお嬢様の幸せ、ただそれだけですから」 「主人の幸せを一番に望む、か。……鳳さんと過ごす中で、蔡未は本当の意味でメイドになっていったんだな」 「まぁ、お嬢様自身がわりと難ありだったというのもありますが。もしかしたら、私はダメ男を引き寄せる性質があるのかもしれません」 「鳳さんは女子だろってツッコミと完全に貶してるじゃねーかってツッコミ、俺はどっちを採用すればいいんだ」 「どっちもツッコミとしては正しいので、両方採用で」 「主人を思うメイドのセリフとはとても思えないな」 その言葉に、蔡未の表情がわずかに緩む。 場の空気が穏やかさを取り戻し、宗太は安心したようにコーヒーを一気にあおった。思わず胸焼けを感じさせるほどの甘さ。 しかし、口直しを超えたその過剰な甘さが、今はとても心地よく感じられた。 「ともあれ、私個人の話はここまでとして……今朝の件でしたね。簡単に言うと、父がまた家族で暮らそうと提案してきたんです」 「話の流れから、なんとなくそんな気はしたが……けど、普通に断ってたよな?」 「むしろ、あれでついてくると思っている方がおかしいのではないでしょうか。きっと、おつむが足りてないのでしょうね」 若干、キレ気味だった。表情の動きがあまりない分、余計に怖く思えてしまう。
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