1/4
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ

 まだ太陰暦から太陽暦に改まる前だから明治初頭、と或る屋敷に財産家で小説家の男が住んでいた。  彼は皆から変人と思われていた。  何故なら人との付き合いを徹底的に避けていたからだ。  彼は公家出身で今は華族に属し、早世した親の家督を継ぎ、人付き合いしなくても悠々自適の暮らしが出来るのだが、彼には人付き合いを避けなければならない深刻な理由があった。  一つは人間嫌い、もう一つは満月を見ると、頭だけじゃなく顔も体も毛むくじゃらになり、顎が大きくなって強力になり、歯も大きくなって牙になり、口も大きくなって左右に裂け、体も大きくなって爪も伸び、人を食い殺してしまう狼男に変身する秘密を露見させないためだった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!