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広重のあの時の目を思い出しながら村瀬に抱かれた貴彦は、横で眠る村瀬を見つめた。
3年前、貴彦がオーシャンの店長になって直ぐ、貴彦は村瀬に口説かれた。
オーシャンは、村瀬が上から新事業として指名され、企画立案して店舗になった。
仕事が終わった後、誰もいなくなったスタッフルームで、貴彦は村瀬にフェラをされた。
気持ち良くて拒めなかった。
気がつくと、村瀬の口の中に果てていた。
その直ぐ後、貴彦のマンションで村瀬は貴彦を激しく抱いた。
貴彦は痛みと快楽に痺れ、村瀬に支配される事に悦びを感じた。
激しく抱かれれば抱かれるほど、身体に村瀬を刻まれるほど、貴彦は幸福感に満たされた。
村瀬は初めて貴彦と関係を持ったベッドの中で言った。
「俺、バイなんだよね。綺麗なものを見るとつい手が出ちゃう」
悪びれることなく村瀬は言い放った。
セックスしたのは愛とか恋とか、そんな甘い綿菓子のようなものではない。
“つい”してしまったのだと言われ貴彦は正直ショックだった。
なのに。
その後も、村瀬が結婚しても関係が続いたのは、貴彦が村瀬を愛していると言う気持ちと、村瀬から受ける快楽に抗えなかった。
貴彦が村瀬の妻に罪悪感がないのも、村瀬の性格のせいだと思っている。
自分ひとりが悩むのがバカバカしく感じたからだ。
それに、村瀬の妻より先に村瀬と知り合い、セックスしていた自分が優位な気がした。
ホント、バカバカしい。
だから道明の目が気になるんだ。
道明の、見てはいけないものを見てしまった目。
道明が言っていることは正しいって分かってるさ。
だけど。
貴彦はまた村瀬を見つめる。
村瀬が離れていくのが怖い。
一度知ってしまった快楽を捨てることは出来なかった。
貴彦は村瀬の寝顔を見つめながら髪を撫でた。
張りがあって少し硬めの髪。
眠る村瀬に軽くキスをする。
「大好き」
そう呟くように言うと、貴彦は村瀬をギュッと抱きしめた。
本心の見えない村瀬を貴彦は愛しすぎていた。
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