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オーシャンは、本社社員のチーフ、調理担当の男性がふたり。3名の女性スタッフはホール、そして店長の貴彦の計7名だった。
テーブルは、切り離すことが出来る4人掛けが15卓あり1度に60名が座れる。
定休日は月曜日。開店は17時。平日は22時00分ラストオーダー、週末は22時30分がラストオーダー。その1時間後が閉店だった。
今日は週末の金曜日。一番の稼ぎ時でもある。
エリアマネージャーとしてこの店は初日なので、広重もホールの手伝いをすることにしていた。
本社から持ってきた、この店の制服を更衣室で着替える。
「俺は厨房とホール、両方を掛け持ちだから、あんたはホール全般をよろしくね」
貴彦はそう言うと、仕事モードの顔なのか目付きが変わっていた。
広重も身を引き締めてホールに立った。
バルという響きと、オシャレな外観と内装に、女性客やカップルが多かった。
広重も持ち前のスマイルで接客をこなしていく。
メニューはさっき頭に叩き込んだので、何を聞かれても大丈夫だった。
本日のおすすめを説明するのも、一切つっかえる事もなく流暢に勧めていた。
カウンターでは、ピンチョスやタパス、カクテルを貴彦が作っている。
アルバイトの女性スタッフも、動線に無駄がなく、出来る限り客を待たせず接客が出来ていた。
広重はオーシャンの他に2店舗担当しているが、オーシャンが群を抜いているのがよく分かった。
引っ切り無しに訪れる客は後を絶たず、気が付けばあっという間にラストオーダーを迎えていた。
「お疲れ様でした!」
1日の仕事を終え店の片付けが済むと、スタッフ達は疲れているはずなのに笑顔で帰って行った。
「今日の売り上げも目標達成したよ、エリアマネージャー」
貴彦が広重に声を掛けてきた。
「そうですか。お疲れ様でした!」
広重はにっこり微笑む。
「うん、お疲れー。どう?この店」
貴彦が感想を聞く。
「そうですね。スタッフの方も優秀だし、料理も満足して頂けているのか食べ残しもほとんど無いのは凄いです」
嬉しそうに広重が言うと貴彦はフッと笑う。
「あんたも手際良かったな。見た感じ、大丈夫かと心配してたけど。村瀬さんがあんたを気に入ってるのが分かったよ」
村瀬の名前が出てドキリとした。
貴彦の口から村瀬の名前が出ると、嫌でもさっきのことを意識してしまう。
「……全く、そう言う所はダメな奴だな。いちいち村瀬さんの名前で顔に出すなよ」
苛つくように貴彦は言う。
「すみません」
広重は謝るしか無い。
どうしてもあの光景が頭から離れなかった。
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