鮟鱇とあん肝のロッシーニ風・シェリーソース

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酒とつまみを買って亮は広重の部屋に入った。 「なかなかの男くせー部屋だな。年明け前に掃除しろよ」 呆れながら亮は言うと、ごちゃごちゃの部屋の片付けを始める。 「い、良いよ!来るなり掃除しなくても!掃除機さっきかけたし!」 恥ずかしくて焦る広重。 亮はキッと広重を睨む。 「こんなきたねー部屋で寛げるか!ったくよー。だからうちに来れば良いものを」 ブツブツと文句を言いながら亮は片付ける。 洋服を洗濯機に入れ、雑誌を紐で括っただけでも、部屋がかなりさっぱりした。 「ありがとう」 小声で広重は言う。 亮はニヤリと笑う。 「書類には綺麗に付箋貼って整理できるくせに、部屋が整理できないとか、チグハグな奴だ」 「だって、あれは仕事だし、人に見せるものだろッ。部屋なんて俺が寛げれば良いだけだし」 ブツブツと広重が言うと亮は笑う。 「全く、世話が焼けるぜ」 亮の笑顔に広重はホッとした。 色々あったが、友達としてやっていけるんだと確信した。 「年末、村瀬さんなんかあった?顔色悪い時が多かったしさ」 まだ村瀬が離婚した話は会社には知られていない。 年明けに会社が始まれば人事は分かることだった。 「亮には言っても良いかな。亮も村瀬さんには振り回されたもんね」 フッと笑って広重は言う。 「亮が口硬いの信用して話すけどさ」 村瀬が貴彦との関係がバレ、離婚したこと。 それが原因で村瀬と貴彦に別れ話が出ていたが、自分が間に入ってお節介を焼き、年末の31日に村瀬の家に押しかけた事を全て話した。 「今度こそ、本当にフラれたけど、俺はこれで良かったって思ってる。俺さ、村瀬さんに対して、なんて言うか、憧れと対抗意識?みたいなもの持ってたんだよね。だけど、今は素直に犬神さんとのこと祝福っていうか、なんて言うか、あのふたりが付き合っていてもなんとも思わないって言うか………………気持ちは晴れ晴れしてるんだよね」 強がりではなく本心だった。 「俺の知らない世界を見た。夢のような感じ?」 広重はそう言って亮に微笑む。 「そっか。そんな事、あったんだ。なんか変な感じ。ちょっと前までのことなんだけど、すげー前の話みたいだよな」 亮がそう言うと広重は亮に指を指した。 「それそれ!俺もそう思う!」 「指を指すな」 亮が広重の人差し指を握る。 見つめ合う。 広重は顔が熱くなった。 「‥………………ごめん」 広重は真っ赤になったまま顔を背けた。 亮はフッと笑うと何もなかったように広重の指から手を離した。 「ま、今年はみんなで幸せになるべ!」 亮の言葉に広重は頷いた。 自分にも亮にも素敵な一年になれば良いと願った。
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