お好みの魚介とトリュフオイルのアヒージョ

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お好みの魚介とトリュフオイルのアヒージョ

「お疲れーライス」 村瀬がバンと亮の背中を叩いた。 「……思いっきりオヤジギャグっすよ。しかもレベル低ッ」 冷めた目で亮は村瀬を見ながら言う。 「何よ何よ。吉国の意地悪ぅ」 シナを作って村瀬は言う。 「………………」 「……少しはノセろよ。仮にも俺、上司よ」 「‥………‥はぁ」 「なになになになに?落ち込んでる?何したよ、道明に」 ニヤリとして村瀬は言う。 「そういや道明は?」 「オーシャンですよ。オーシャン」 ふてくされて亮は言う。 「フラれたか?道明ちゃんに」 村瀬に肩を組まれて囁かれ亮はカッとした。 「別に!そんなんじゃ」 亮は村瀬と目を合わせない。 「だからどうしたって。言ってみ。意地悪しすぎて嫌われたか?」 「だから、そんなんじゃないですってば、しつこいな!」 「こえー。襲って玉砕したか?初めての時は優しく挿れないと」 真っ赤になって亮は村瀬を睨む。 「わざとですよね。知ってて、わざと言ってます?」 村瀬は亮のスーツの後ろ首の襟を上に持ち上げた。 「めんどくせー奴だな。ちょっとこいや」 「嫌ですよ!」 「叫ぶぞ。お前が道明犯したって」 慌てて亮は立ち上がった。 村瀬なら叫びかねない。 村瀬はふふふと笑うと亮を会議室に拉致した。 「で?何した?」 「別に!」 真っ赤になって亮は言う。 「お前が道明に惚れてるのなんかお見通しだから。せっかくうまくいくように、一緒にチーム組ませてやったのに」 「マジですか?」 亮は慌てる。 「嘘。そんな事、俺がするか」 疑心暗鬼の目で亮は村瀬を見る。 「いつからバレてました?」 「そうね、お前がやたらと道明をライバル扱いしだした頃かな。お前好きな子苛めるタイプだし」 図星で亮は言い返せない。 「で?落ち込むような事あった?」 「その前に、村瀬さんもゲイだったんですか?気づくって事はそう言う事でしょ?」 「俺、バイ」 村瀬は真顔でカミングアウトした。 「奥さんいるのにって思ったけど、そう言うことか」 「だって奥さんと恋人は別モンだし」 「いつか刺されますよ」 「てへッ」 亮は殴ってやろうかと思ったがぐっと堪えた。 「話進まねーだろ。今はお前の話。で?ヤっちゃったの?」 「してません。でも、俺の気持ちは押し付けました」 「ちゅーぐらいすれば良かったのに」 「………本当は見てました?」 「そんな訳ないだろ!そこまで暇人じゃねーし」 ゲラゲラと村瀬は笑う。 「キスしました。抑えられなくて、気持ち。もちろん奴は受け入れてくれないけど」 「そりゃそうだろ。今までそんな経験してないだろうし。で?」 で?と聞かれても、もう返すネタが亮にはなかった。 「好きにさせるって宣言したけど、時間が経ってどうすれば良いかって分からなくなって。あいつも警戒するだろうし」 亮はため息を吐く。 「しばらくは様子見だな。でもさ、俺はお前を応援するわ」 村瀬の言葉にびっくりして村瀬を見つめる。 「なんで、ですか?」 「ライバルは消すに限る」 ニヤリと村瀬は笑う。 「オーシャンの店長の犬神貴彦は俺のだから。その側にいる道明に取られないように。あ、あいつも貴彦が俺の恋人だって知ってるけどな」 亮は村瀬の笑ってない目を見つめた。 まさかフェロモン男が本当に男の恋人がいて少しだけ驚いた。 しかもその相手が自分の上司。 そしてそれを広重にもカミングアウトしていたのにはびっくりした。 「道明がオーシャンの犬神さんを好きなんですか?」 焦って亮は尋ねる。 「道明が貴彦を好きになったら困るじゃん。お前だって分かってるだろ?道明が男を惹きつけるタイプだって。今は無害だけど、そのうち貴彦を好きになったら、取られちゃうかもしれないからー」 おちゃらけているようで、村瀬の目はずっと笑っていない。 「だって、犬神さんは村瀬さんの恋人でしょ?」 「恋愛に絶対ってないから。そんなのわかってるでしょ?」 フッと笑う村瀬に亮は何も言えない。 確かに絶対はない。 既婚者である村瀬が、いつまで貴彦との関係を維持できるかも謎なのだ。 亮は広重と貴彦の関係が余計に気になって来た。 広重がオーシャンに行くのが嬉しそうなのはもう分かっている。 「別に応援してもらいたいとも思ってませんが。俺は自分のために道明と付き合いたいだけですから」 「んなこと分かってるよ。ただ、その方が俺にとっても都合いいだけ。もうこれ以上、道明に嫌われるようなことすんなよ」 フッと笑って村瀬は会議室を出た。 「……分かってるさ。ばぁーか」 亮が悪態を吐くとドアが再び開いて亮はギクリとする。 「今、ばぁーか言っただろ」 ギロリと村瀬は睨む。 やっぱり、この人、なんでもお見通しだ。 そう思って亮は首を振る。 「あっ、空耳だと思います」 焦りながら亮が言うと、村瀬は猫が鼠をいたぶるように見つめる。 「俺に反抗的な態度したら、ケツに突っ込むからな」 ニヤリと笑って村瀬は再びドアを閉めた。  亮は絶句した。 亮が受けだと言うこともしっかりバレていた。
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