合鍵をくれるってそういうことじゃないの

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枯葉が街路に沢山落ちて風に吹かれている。さっきまで青かったはずの空はオレンジから赤く染まりグラデーションを見せ信じられないくらいに綺麗だ。 (綺麗な夕焼けを見るのは久しぶり。ゆっくり空を見上げる時間も無いなんて働き過ぎかな。) 富士子は職場から彼の部屋までの道のりを歩いていた。9時から5時まで働いて今日は友達の社長さんと食事の約束をしていた。 「 こっちから誘っておいて申し訳ないけど急用が出来て行けなくなった。君が一人で良いならお金を出すけど。」 と、ついさっき職場に電話があった。まだ誰も携帯を持って無い時代の話だ。丁寧にお断りして富士子はせっかく出来た時間を彼と過ごしたいと思った。 (今日はお友達のおじいちゃんと食事に行くから会えないと伝えてあるから彼はきっと驚くだろうな。) 会社から、 「今から行く」 と、連絡して会社の人に聞かれるのが恥ずかしくて5時になるとすぐに会社を飛び出した。街路にある電話ボックスを横目に富士子は歩みを急いだ。一刻も早く彼に会いたかったからだ。
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