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夜はあける
いつかこんな日が来ると思っていた。
今がそのときなんだろう。
「……どうして?」
「君に……ためらいがあるからさ」
僕は彼女を強く抱きしめた。
「ごめんなさい……ごめんなさい」
「……いいんだよ、これでいいんだ」
ただれるように、焼かれるように体が疼く。次第に意識が遠退き、急速に体温が失われていく。
彼女の涙が僕の頬を濡らす、その温度だけが確かだった。
「どうかもう、ためらわないで」
その右手が食い込むよう、さらに強く彼女を抱きしめた。君に刺されて死ねる。こんなに幸せなことはないよ。
終わり
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