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そんなある日、初めて訪れる古本屋に足を運び世界中の湖の資料を漁っていると、背後から嗅ぎなれない煙草の香りが漂ってくる。
不快な気持ちにならない、なんでだろうか? 不思議に思った私は煙の場所を調べるために振り向くと、そこには立派な髭と漫画家が被っていそうな帽子を被り、丸いレンズのメガネが似合う初老の男性が、パイプ煙草をふかしていた。
手元には古くも立派な本が握られていた。
「いらっしゃい」
視線をチラッと私に向けて挨拶してくる。
「ど、どうも」
「お嬢さん、そんなに珍しい本ばかり集めて何を調べたいのかい?」
「え? これは、ちょっと趣味でして」
さして私に興味がないのか、すでに目線は本に戻っている。
「変わった趣味をお持ちで、私で力になれそうなことはあるかい?」
一瞬迷った。 この人に私の趣味を理解してもらおうとは思わない。
けれども、もしかすると、求めている真実を彼は持っているかもしれなかった。
「あ、あの…。 淡水の魚で私よりも大きな魚っていますか?」
だいたいこの問いの答えに対し、多くの人はこう答えてきた。
『ピラルク』と、しかし、私が求めているような魚ではない。
どこが違うのかと言われると、具体的には言えないが、心の奥にスッキリとした感覚がないからだとしか言いようがなかった。
「あぁ、それなら皇帝魚かな?」
「皇帝魚?」
「そうさ、世界最大の淡水魚の一つで私は一番好きだな。 他にも候補はたくさんあるけれど、一番好きという理由で申し訳ないが、私はあたなの問いには皇帝魚と答えるよ」
「す、すごい名前ですね」
「あぁ、そうだろう? 数ある魚の名前の中でもひときわ大それた名前だよ」
和名でそう呼ばれているのだろうか? 疑問はつきないが、もしそんな名前の魚が本当にいるのなら、私が求めている魚に限りなく近いと思われた。
「ただし、ナポレオンフィッシュと呼ばれる魚も皇帝魚と呼ばれているが違う。 淡水に潜む、美しい魚だよ」
私の意識は既にここになかった。 知りたい、もっと知りたい。
「それって、どこの湖にいるんですか?」
「湖と言われると定かでないが…。 調べてみなさい、きっと面白いとおもうよ」
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