蜃気楼フィッシュ

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 彼の言葉を聞いて、すぐに会計を済ませると家に戻り、少しだけ埃をかぶったパソコンを起動させ、検索エンジンに名前を打ち込む。 『淡水 魚 皇帝』  出て来た情報に私は一瞬で虜になる。 きっと彼が言っていた魚に違いないと一目でわかる。  なんて美しい魚なのだろう…。 神々しいほどの白い魚体に、皇帝の名にふさわしい姿。  きっと、母が言っていた魚はこれだと確信した。 いや、きっと母はこの魚のことなど知らなかっただろう。  しかし、あの蜃気楼に潜むのは間違いなくこの魚であると。 「ホワイトスタージオン?」  聞きなれない名前に、さらに検索をしてみるとシロチョウザメとでてきた。 「チョウザメって、あのキャビアの?」  調べてみると、少し種類が違うようでベルーガと呼ばれるチョウザメが最大級のようだが、私はこのホワイトスタージオンと呼ばれるシロチョウザメに興味が惹かれた。  主な生息地として一番上に表示されたのは『カナダ』であった。  幅の広い川に生息し、遡上してくるサーモンなどを好んで食べているようで、豊かな自然があってこそ、この姿になりえるのかと思えた。 「へぇ、一応釣りの対象魚として人気なんだ…」  釣り人のブログをクリックしてみると、日本人の大人の身長をこえた魚が映し出される。  一瞬、心臓が飛び跳ねたような感覚に陥った。   それほど、私はこの魚を求めているのか? 母が私に教えてくれた嘘は今、真実になりつつあった。
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