向こうにある声

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「名前は?」 返答があると予想していなかった男は、興味のないどうでも良いことを問い返していた。 「私の名前はチカ」 「俺の名前は……」 自分の名前さえ思い出せないでいると、 「あなたの名前は幹雄」 向こうから告げられた。 「俺の名前は幹雄…… 何故お前が知っている」 確かに自分の名前だと感じ、疑問を投げかける。 「私はあなたのそばにずっと居た。 誰よりもずっとずっと」 この言葉に、幹雄の溜まっていたものが吐き出される。 「何で俺はここにいる、何で俺には記憶がない、お前は俺にとって何なんだ」 矢継ぎ早の質問に、 「それは……」 向こうの声に答えを告げようとする意思を感じるも、 「ダメ、私にはもう時間がない。 私はもう消える」 思わぬ声が返ってきた。 「おい、おい!」 幹雄の呼びかけにも全く返ってくることがなくなった。 気がつけば、幹雄は光ぎ漏れる僅かな隙間を必死に素手で掘っていた。
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