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「危ないところだったな、少年。もう少しで死ぬところだったぞ」
あっけらかんと言い放った女の声に振り向いた。
ボーダーが入った白い長袖のワイシャツに黒のパンツスーツを着た女の人。時には最低気温が一度を下回る今の時期にその格好は自殺行為も甚だしく、見ているだけで寒い。せめて、上着を着たら良いのに。
「ほら」
女は線路上でへたり込む俺に向かって手を伸ばしてきた。
もし、ここが交差点や駅舎の中だったなら思わず二度見していただろう。そのぐらい見目が整った美女だ。だが、
(『中身』が違う)
「・・・・・・ありがとうございます。一人で立てます」
伸ばされた手を断り、自力で立ち上がると砂を払う。落とした眼鏡を拾おうと辺りを見回していると、女は俺の顎を捉えた。
「・・・・・・・・・・・・!?」
驚く間もなく、女の皮を被った化物は俺の瞳を覗き込んできた。
値踏みするかのようなその視線に息が詰まりそうだ。
逃げたい。
それなのに、獲物を見つけた肉食獣のような眼光から逃げられない。目を逸らした途端、その陶器のようにひんやりと冷たいその白い手で手足を引き千切られ、頭から食われそうだ。
女は目を細め、口の端を吊り上げた。
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