【第1譚】開かずの踏切

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『化物』は帰り際に女子生徒に何かを囁いた。『化物』の言葉に女子生徒は心当たりがあったのだろう。大きく目を見開いた女子生徒は身を乗り出した。そのまま言葉を続ける前に『化物』は自身の指先を唇に当て、しぃ、と囁く。 「また『夢』を見たら連絡したまえ」 『化物』はそう女子生徒に名刺のような物を差し出す。それを一瞥した女子生徒は頭を下げた。そうこうしている間に病室の前で女子生徒の母親が現れ、俺達がここにいる意味はなくなった。 病院を出た『化物』はニコニコと笑顔だ。一体、あの女子生徒に何を言ったのやら。 「気になるかい?」 「まぁ、多少は。例の踏切の傍は俺も通るので」 「そうか。なら、このまま家まで送ってやろう。太陽が沈むと変なモノが沸きやすいからな」 「あんたの見目の方がよっぽど男に狙われそうですよ」 「おや、そっちの心配か。安心したまえ。そんな輩返り討ちにしてやるさ。それに、いくらきみが心を読めるといっても逃げ足が速くなければ捕まってしまうぞ」 この『化物』は一目見たときから気づいていたのだろう。俺は隠すことを諦め、溜息を吐いた。
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