【第1譚】開かずの踏切

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女子高生が自殺した翌週から『開かずの踏切』で事故や怪我が相次いだ。何の因果か、その事故や怪我をしたと言われている人間はすべてその女子高生が通っている学校の生徒だと言う。 そんなわけで、『自分を自殺する羽目に陥らせた人間に復讐するために手当たり次第踏切に引き込もうとしている』というB級ホラーのような噂がこの市立中学校にまで届くようになった。 卒業を間近に控えた受験生にとってその話は恰好の暇潰しで、肝試しのごとく行こうとする生徒を教師が窘める日々だ。 (平和ボケしてんな) 人間は怪異に魅せられる。ここまで人間が怪異に魅せられるのは、未知への恐怖。手軽に味わえる興奮とスリル。分からないモノへの期待。ありとあらゆる要素が重なり合う結果だろう。 口頭、書物、ネットワーク。さまざまな伝達方法で今でも広がり続けている怪異の中身がウソかホントかはどうでも良くて。要は愉しければいい。 大学受験によるプレッシャーか、虐めに遭っていたか。はたまた恋人に振られたか。本当に知らなければならないはずの女子高生の自殺理由は闇の中だ。 (まぁ、俺には関係ないけど) 俺が教室に入ると、先ほどまでざわざわとしていた話し声がピタリと止んだ。チラリと会話の中心に目をやれば男女がばつが悪そうに目を逸らした。その不自然さに呆れを通り越して笑えてくる。 (口を閉じた程度じゃ何の意味も無いのに) 俺は自分の席に座ると本を開いた。一限目が始まるまであと十分。退屈な時間が始まる。
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