7人が本棚に入れています
本棚に追加
「くそっ」
俺はまだ下がりきっていない遮断機の下を通り、踏切の中に入った。
「何やってるんだ、あんたは!死にたいのかっ!」
女の腕は掴んで引っ張っているというのに岩のように重い。その瞳を見て少しだけ後悔する。その女子生徒の瞳は空の景色を何一つ写さず、底無し沼のように虚ろだった。
自分の足を何かに掴まれる感覚に尻餅をつく。その拍子にかけていた眼鏡がかちゃん、と音を立てて落ちた。
「イッ······」
起き上がろうとして目の前の光景にぎょっとする。肘の上から手の先までの黒い腕が線路から生えていた。一本や二本なんかじゃない。数え切れないほどの老若男女、様々な人の腕。それが花のように咲き誇り、俺と女子生徒の足にしがみついている。
『ああ、やっと捕まえた』
歓喜するようなその甘ったるい声にゾクリと背筋が震えた。
最初のコメントを投稿しよう!