【第1譚】開かずの踏切

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『おいで』『狡い』『おいでよ』『嘘吐き』『死ぬって言ったのに』『嘘ばかり』『私だけ』『ああ、狡いなぁ』『なんで僕だけ』『死にたくない』『おいで、おいで』『狡いよ』『おいでよ』『僕のせいじゃないのに』『嘘吐きだなぁ』『死ぬって言ったのに』『嘘ばかり』『死ぬのは怖い』『狡い』『なんで僕だけ』『あいつのせいだ』『死にたくなかったのに』 ねっとりと粘着した何十にも重なって聞こえる声に吐き気が喉元まで迫り上がってくる。 今すぐにでも逃げたいのに俺にしがみつく黒い腕が増えていき、逃げることができない。怨みや妬みといった怨念の塊のようなヘドロに呑まれ、いつの間にか暗闇の中だ。 『ほら、一緒に逝こうよ?』 遮断機が降りる。電車の音が近付いてくる。 ああ、もうくそっ。いつもなら巻き込まれないで済むのに。今日に限って。 リン······、と鈴が転がる音がした。
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