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再会はひと月後です、トルソーが着たドレスが依頼主を今か今かと待っています。
ドアに付いたベルが来客を知らせます。お約束の時間通り、鈴さまが正邦さまといらっしゃいました。
「お待ちしておりました」
ミシンを止めて立ち上がると、
「──わあ……」
鈴さまが声を上げました、視線はしっかりとトルソーが着たウェディングドレスに向いています。
ええ、もちろん。鈴さまのアイデアが詰まったドレスです。
「素敵……私の夢が叶った……これ、本当に私が着ていいの?」
「え、見えてるの?」
正邦さまが不思議そうに聞きます。
「うん、不思議ね、一瞬だけどはっきりと見えたの。今はもう、見えなくなってしまったけど──」
右目は強い光なら感じる事が出来るのだとおっしゃっていました、しかし物を判別するには至らないそうです。でも今は暗めの室内に、純白のドレスは外からの光を浴びて、確かに輝いて見えます。それがより光を感じてドレスを見る事が出来たのでしょうか。
ええ、見えたと言うのは本当でしょう、勝手が判らぬ筈の店内を、鈴さまはまっすぐドレスに向かって歩いて行きます。もちろん正邦さまの手は借りていません。
これも奇跡でしょうか。
ドレスの前に立つと、形を確かめるように、何度も何度もドレスを撫でてくれています。光を失った瞳がキラキラ輝いてるのがとても綺麗でした。
鈴さま待望の品を作る事が出来て、いい仕事をしていると誇らしげな気持ちになりました。
そしてこのドレスを着て幸せに微笑む鈴さまを想像して、胸がいっぱいにもなりました。
当日のあなたが、誰よりも眩しい笑顔をしているのだと確信しています。そのお手伝いが出来たことが、なによりも喜びです。
終
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