登場キャラについて

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登場キャラについて

 私は小説家志望の「くずもち」である。もちろんペンネームだ。  これは小説の形をした、小説の書き方をまとめた本として、実験的に作成しているものである。もちろん内容については多分にフィクションが含まれる事をご了承いただきたい。  さて、小説の書き方と言っても、これを読んでいるような物好きは、本を大量に摂取しているに違いない。ならば小説の書き方、形というものはもうお分かりだろう。  なのでだいぶ走って説明させていただく。  その上で一番最初に紹介していきたいのは物語の構成である。もうこの時点で物語のスタートラインから足が出ている状態である。  構成にも色々あり、有名どころで言えば「序破急」や「起承転結」だろう。その序や起が、今の段階である。  ただただ話が進んで行くだけでは面白味がない。山あり谷ありにした方が読者は喜ぶのだ。  そこで、この序盤にはどんな要素を組み込めばいいのかというと、このお話のベースを紹介する、何を目的にしているのかを提示する、という事である。 「ちょっとくずもち君! そろそろ会議に参加してくれないかなー」  我がサークルの長、ちょーちょー氏が僕を睨む。  僕が参加している創作サークル、「混創流」は、多種多様な創作をそれぞれ協力することによって、より多くの人の目に触れるよう形にする事を目的として作られた全員社会人の一般サークルである。  そしてここはちょーちょー氏の自宅兼作業場の、マンションの一室で、男二人、女三人が顔を付き合わせている。 「あーやっぱりこういうしきるのって苦手だわー。しのっち代わってー」 「はい、では僭越ながら私東雲が進行を勤めさせていただきます」  彼女はゲーム創作部門の東雲氏である。実在するかは不確定だが、チームを持っていてゲームに必要なプログラミング、音楽、シナリオ等々、一通りはできるらしいが、シナリオやイラストに関しては外注した方が出来がいいらしく、こちらに依頼がくることもある。 「まず始めに、参加が決定しているイベント で販売する新作についてですが、創作物として何を出すか、新作が出来ている、またはイベントまでに完成する見込みがある方はいらっしゃいますか?」 「あ、うちは描き溜めてるのがいくつかあるんでいつでもいけるっすー」  ミサッチ氏は男である。職業や私生活は一切不明だが、イラストを発表すればたちまち列が出来るほどの神絵師である。ミサッチ氏は男である。萌え豚どもをヒイヒイ言わせる美少女イラストが得意である。ミサッチ氏は男である。しかも見た目40代の肥満体型で頭皮がうっすら見えるような外見の男である。 「いつも手が速いですね。では、ミサッチさんのイラストが一つとして、他にはありますか?」 「あの、漫画があと一歩のところで完成しそうなんですけど……どうしてもエンディングがうまくまとまらなくて……どなたか御指南いただけないかと思いまして……」  気弱そうに挙手をして発言したのはミサッチ氏とは真逆の性質を持つ、見た目中学生のメガネっ娘、触れれば折れてしまいそうな華奢な体少女の名は…… 「ドゲルちゃん想像は得意だけど形にするの苦手だもんねー。そういうことならくずもち君、手伝ってやりなよー」  ちょーちょー氏はいきなり僕へ、無責任に仕事をふる。 「くずもちさんが助けてくれるなら心強いです。お願い……できますか?」  その真っ黒な瞳で見つめられると、僕の下心、もとい良心がヤってやりなさいと告げる。 「ドゲル氏に頼まれては仕方ない……。けれど力になれるだろうか」 「くずもちさんなら百人力です! よろしくお願いします!」  僕は物語をまとめる、綺麗に正すのが好き、というと語弊があるか、間違った、矛盾した物語が嫌いなので、話をスマートにまとめる技術は多少あると自負している。しかしドゲル氏の手伝いにおいて心配な点はそういう類いのものではない。ドゲル氏の想像力が豊か過ぎて、それを自分が理解できるかという問題である。  特にドゲル氏の作る作品はお世辞でも一般受けのするものとは言えず、ジャンルに分けるとしたらグロテスク系という、自分には理解ができない領域の創作をする人なのだ。  その界隈の人たちにはグロドゲルの呼び名で崇められていると噂で聞いた。  引き受けたからには最後まで助力するつもりだ。気をしっかり持って取り組もう。 「では次回のイベントはイラストとマンガの二つを新刊として発表しましょう。それ意外に前回のイベントの残りもいくつかありますので、そちらを既刊として持っていきましょう」 「ってなわけで、やることは決まったわけなんで、各自作業に入ろうか!」  最後のいいところだけリーダーが持っていくのはいつものことだ。その掛け声を聞いて、僕らはそれぞれ作業場へ向かう。  この部屋には三台のパソコンが設置されており、それがちょーちょー氏、東雲氏、ミサッチ氏の作業用になっている。残るドゲル氏は基本的にアナログ作業になる為、デスクが別に用意され、僕は自前のノートパソコンを、今まで会議に使っていたテーブルに置いて執筆をする。  今回はドゲル氏をテーブルに呼び、そこで作品のテコ入れをしようと考えていた。  おわかりいただけただろうか。物語の導入として、基本的な登場人物の紹介に合わせ、この物語がどんな舞台で、キャラがなにを目的にしているのかが、大雑把に表現されている。  もちろん主要キャラを一気に紹介する必要はないため、各自創作物を作る際は、ここだというところでキャラを登場させ、そこではハッキリとどんな性格なのかがわかるように喋らせるのが大事になる。  僕の物語ではキャラの役割分担が明確な為、一気に登場させたところで問題はないだろう。名前もペンネームであるから覚えやすい。  キャラがそれぞれやりたいことを明確に表していれば、物語自体の目的もなんとなく伝わる。今回で言うと創作サークルとして、参加する主役の僕、くずもちは、自分の作品を完成させるより、まずサークル仲間のドゲル氏の創作物を手伝うというミッションが発生したことで、他の人の為に自分の能力を使う、という話の流れと主人公の優しさを表現できたのではないだろうか。  物語の目的を描くとき、主役に明確な意志を持たせるのは重要であるが、その意志は主役が主導でなくてはならない訳ではない。ヒロインや大切な誰かの願いが、そのまま主役の目的になってもよい。  僕のような、あまり我のない人間にはそういうヒロインに振り回される系の物語の進み方がちょうどいい。 「くずもちさん、それで出来てるネームがこれなんですけど……」 「ん、どれどれ……これはまた激しい……」 「今回のはいつもと違ってハートフルな感じにしてみたくて……」  グロでハートフルとはどういうものなのかさっぱり想像がつかない。まずは聞き取り調査が必要だな。 「すみませんくずもちさん、大事なことをお伝えし忘れておりました。ドゲルさんとお話の途中で本当に申し訳ありません」  東雲氏が急いだ様子で話しかけてくる。なにか緊急の用事だろうか。 「大丈夫ですよ。まだ始めたばかりですから。なんですか?」 「この前ご協力いただいて、クレジットに名前を書かせていただいたじゃないですか」 「はい。なんパートかサブシナリオ書いたやつですよね」 「そうです。それが買っていただいたユーザーさんに喜んでいただいたみたいで、ファンレターをいただいたのですが、そこにくずもちさんのパートが大変気に入ったとの文面がありましたので、お渡ししようと思いまして」 「これはこれは、親切にどうも。拝見いたします」 「それでですね。問題がありまして、そちらのお手紙の最後なのですが……」 「えーっと、このお話を書いた方とぜひお会いして、一つお願いをしたいことがあるのでご連絡していただけませんでしょうか? なんです、これ」 「そのままの意味だと思うんですけど、お仕事のご依頼なのかなと。私のチーム内でしたら個人でのお仕事は全てお断りさせていただいてるのですが、お気に召したストーリーがくずもちさんのものでしたので判断に困りまして、ご相談させていただきました」 「はあ……僕個人では特に問題ないのですが、ここで仕事を受けてしまうと東雲氏のチームに影響が出てしまうのでは?」 「直接会って、とのことみたいなので、くずもちさん個人での受領だとその方に説明いただければ問題ないです。それに、会いに行かれる場合は私も同行いたしますので」 「それなら、東雲氏からこの人に連絡してもらっていいです。会う日は一週間前までに決まっていればこっちはそれに都合合わせますので」 「わかりました。ではそのように手配させていただきます。お時間いただきありがとうございました」  東雲氏は僕とドゲル氏に深く頭を下げて作業場へ戻っていった。 「なにか大変そうですね……やっぱり私、一人で頑張ります……」  気を使ったのか、ドゲル氏は小さな体をさらに縮ませ、手に乗るんじゃないかというほどに恐縮していた。 「いや、すぐにはどうこうするようなものじゃなさそうだし、ドゲル氏の作品を仕上げるのはちゃんとやりますよ」 「ほ、本当ですか?」 「はい。任せてください」 「すみません……。じゃあこのマンガのストーリーを説明しますね」  ドゲル氏は自分のマンガの話になるとそれまでのおどおどした様子がなくなり、急に活発になる。他人に気を使うのも忘れてしまえるほど、創作が好きなのだと、誰が見てもわかる。  その熱意が僕は案外好きだと、最近気がついた。自分のキャラじゃないと思いつつ、頑張るドゲル氏を応援したいと、真剣に考えている。  それにしても、僕の書いたシナリオを誉めてくれるのは嬉しいが、それで仕事をお願いしたいとは、なんとも不気味なファンレターだ。しかし手紙を送ってくれたからには会うくらいはしてみたい。というか読者の率直な感想が聞いてみたい、というのが本音だった。  僕は期待と不安のマーブルな心をそっとしまい込み、ドゲル氏のマンガを読み進めるのであった。  と、一区切りの終わりに今後どうなっていくのか、続きが読みたいと思わせるような話の流れもテクニックの一つである。  お気づきの人はいるだろうが、ファンレターが重要な鍵となり、それによって出会うまだ名前も知らない相手がストーリーの展開を持ってきてくれる為、キャラの登場はしっかりと目立たせた方がいいと言えるだろう。
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