絵葉書の内側

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   ■ ■ ■  日本橋の中央通りの裏にある探偵事務所。  窓際の大きなデスクにふんぞり返った探偵を見て、コーヒィを運んできた黒髪の助手が「随分とご機嫌じゃないですか」と声をかけた。 「そうかな?」  男のかんばせは、指先で弄ぶ便箋に向けられたまま動かない。それは珍しい事だ。交友関係の薄いこの男に手紙を送る者が自分以外にいたのかと、送り主が気になって封筒に目を向けた。 「米国から?」  まさか外国からの手紙とは思わず声をあげると「お礼の手紙さ」と小さく笑う。 「一途な馬鹿は嫌いじゃないからね」  そう言って細められた目が本当に嬉しそうなものだから、助手は「珍しいこともあるものだなぁ」と感慨深げに頷いて、彼の分のコーヒィに口をつけるのだった。
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