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程よい酔いと満腹感に
少々風に当たるべく、店外に出ると
テラススペースのベンチに座り
タバコをふかしていたリョウがいた。
俺の姿に気が付いて
タバコを口にくわえたまま
声もなくニッと笑い、
隣りにあるデッキチェアをひいてみせる。
俺は黙ってそこに座り、
リョウの手元から
シガレットケースを奪うと
一本取り出した。
「あれー、イブりん吸うんだっけ?隠れスモーカー?」
「最近復帰した。って言っても、飲んだときだけな。普段はやんない。お前さんみたいに持ち歩かないし、こそこそした隠れメタル的な?」
「へーぇ。不良なんだ。不良ピアニスト」
俺が向けたタバコに
リョウは火をたたえたライター差し出す。
アメリカンヴィンテージのジッポで
よく使いこなされた品だ。
コイツが持っているものには
いつも、男の裏付けを感じてしまう。
バイクも、タバコも、
大体こなせるスポーツも
彼のらしさがあって、様になっている。
そこに軽薄さがまったくないのは
本人の姿勢やメンタルに
しっかりとした厚みがあるからなのだろう。
「ピアニストじゃねーし。趣味の手習い程度に、独り身の怠惰防止と知能活性化で始めた、それだけよ。でもいい気分転換になる」
「ふぅん。いいじゃん、ピアノ。俺好きだな、『ニューヨーク・シティ・セレナーデ』とかシカゴの『Hard to Say I'm Sorry(素直になれなくて)』とか、ジジイがよく聞いてた。そうだイブりん、『メイクザ・マンラブ・ミー』って知ってる?ジャズなんだけどさ、弾けたら弾いてほしい」
『メイクザ・マンラブ・ミー』。
……あの霧雨の夜、
ユウナがトカゲさんにリクエストした
あの曲だ。
ユウナはあの店に
『リョウを連れて来た事はない、自分のテリトリーだから』
と言っていた。
自分の場所だからこそ
あの夜のコウさんを招いて
一騎打ちしたのだろう。
(ちなみにコウさんの事をトカゲさんは『いけ好かないワビサビ野郎』と言ったらしい。もしもリョウと会わせたら、激しい同属嫌悪となったことを推察する)
「……あー、分かんね。それにジャズは難しいから。勘弁して。クラシック畑なのよ、俺。国立県産、親の敷いた英才教育のレールを歩いてたんで」
抑揚のない返事に
リョウはさして落胆することもない。
「ははは、国立は県じゃねーだろ!イブりん、お坊ちゃまだったんだよね。良家のコドモ。いい両親に大切に育てて貰った。そういう育ちの良さって、本人見せなくてもやっぱどこかに出るよなぁ。アリサもそんな感じ。基礎にある素直さ、ああいうのには、マジでかなわない」
そう言って少し、言葉を含ませた。
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