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魔王が消えた日
ーーー魔王が消えた日ーーー
「ふはははは。勇者はこの魔王の下に葬り去られた。どうする小童どもよ。それでも人類は魔族にたてつくというのか」
分厚い雲に覆われた魔界の地に、血塗れで伏している若者がいる。勇者『だった』その男だ。
ーーー少し距離を置いて、魔王に対し戦闘態勢を崩さぬ三つの影があった。勇者パーティーの生き残り
ーーーこの世の最後の光となり得るかも知れない人間たち。どうする。このままではパーティーは全滅だ。
(…地上に帰還して現状だけでも伝えなければ)
(…このまま魔王を見過ごせば地上世界はあっという間に破壊されるじゃろう)
(…どうにか魔王を倒せる体勢を整えられれば、勝機はいつか訪れるわ)
三者三様の思いが脳裏をよぎる。
→コマンド?
…剣士は逃げ出した。
…魔王は凍てつく吐息を吐いた。
…剣士は凍りついた。
…魔法使いは聖なる雷を召喚した。
…魔王はダメージを受けていない。
…魔王は戦斧を振り回した。
…魔法使いはなぎ倒された。
時魔道士は………
→コマンド…?
ーーーたった一人取り残された時魔道士は思案を巡らせていた。どうやって勝機を見つけ出そう。魔王の周りだけ時を止めてやろうか、いや、そもそもそんなことは可能なのか。それに誰かが魔王の呪縛を解いてしまったら、意味がなくなってしまうじゃないか。もし自分だけ過去に戻って全てやり直せたら上手く物語が進むものだろうか。いや、時空魔法の掟でそれは禁止されているし、古書によるとその理由は必ず「時」の修復する力が働き、同じ結果に回帰するからだと説かれている。
そうこうしているうちに、魔王はその手のひらを頭上に掲げ、魔法弾のエネルギーを蓄え始めた。あんなものを食らったら、華奢な時魔道士の体など瞬く間に消し飛んでしまうだろう。
仕方ない!
…時魔道士は呪文を唱えた。
…魔王を魔法陣が取り囲んだ。
…魔王は動けない。
…魔王は眩い光に包まれた。
「ぬううう。なんだ、これは」
「これが、最後の切り札。どうか勇者の血よ、いつの時代か魔王を討ち滅ぼしてちょうだい」
【魔王は時空の彼方にかき消された】
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