不運の星の名の下に

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 呆然として、とりあえず交番に被害届は出したけれど犯人の顔も覚えていないのでは捕まらないだろう。  トボトボと歩いていると、いつの間にか夜になっていて、妙に冷たい風が吹き抜けた。 「どうしよう……」  泊まれる家はないし、連絡を取るにも充電切れ。店に入るにも食べるには足りない。都会の真ん中で難民状態だ。  あてもなく歩いていると、路地の奥にポォと光る「占い」の文字が目についた。  いかにもな格好をした髪の長い人物が座っている。 「占いか……」  出来ればこの不運をどう振り払ったらいいか、教えて欲しい。この後どこに行けばいいのか、もう分からない。  そんな気持ちから、足をそちらへと向けた。占って貰おうとか思ったわけじゃなく、前を通るだけ。そう思ったのだ。  占いの前までさしかかる。そしてこの距離で初めて、座っているのが男だと知った。髪が長くて、とても綺麗な顔をしている。目鼻立ちが良くて、睫がバサバサだ。そしてその髪も綺麗な金色だ。 「……貴方、不運のどん底にいますね」 「え?」  占い師の顔が上がり、伏せられていた瞳が露わになって驚いた。カラコンなのか金色をしている。 「貴方には不幸という不幸が巡ってくる。家庭は崩壊していて、貴方も孤独では?」 「あっ、はい。父は出て行き、母は海外で、俺は一人です」 「今朝、職を失いませんでしたか?」 「え!」  思わず絶句。まだ何も言っていないのに、占い師は全てを見透かしているように言い当てていく。占いなんて心理テストみたいなもので当たらないとか言うけれど、俺はまだ何もこの人に言っていない。  金色の瞳が柔らかく細められる。それだけで、ドキリとした。 「金運も限りなく落ちていますし……家も無くしてしまいましたか?」 「どうして……」 「縁という縁が切れてしまっていますね」 「スマホが……」 「なるほど、連絡がつかないのですか。それに、悪意ある者が貴方の望みを絶った」 「ひったくりに鞄を」 「不幸もここまできてはご立派です。命があるのがむしろ幸運という状態ですよ」  わりと、洒落にならない気がした。  占い師はにっこりと優しく微笑んでいる。正直これだけの不幸があった後だ、人の笑顔が恋しく思える。 「よろしければ、占いますか?」 「あの、俺……お金が」 「大丈夫ですよ。ここまで運気の無い方と知り合う事も稀なので、一つ私の勉強だと思って」 「はぁ……」  占い師が勉強にと選ぶ程の運気のなさというのは、もうどうしたらいいのだろうか。  何にしても椅子を勧められて座った俺の前で、占い師は細い棒のような物をジャラジャラする。なんだかもの凄く占いっぽい。 「……望み薄し」 「はぁ……」 「身の回りに注意せよ」 「ですよね」 「……今夜、ますます冷え込むようですよ」 「凍死とか、風邪からの肺炎とかですかね?」  もう笑えてきた。実際俺は泣きそうな顔で笑っていたと思う。  占い師さんはとてもオロオロしながら肩を叩いて励ましてくれて……一つの綺麗な指輪を前に出した。  龍の彫り込みがされた細い指輪で、口に綺麗な宝石を咥えている。重厚感があって、なんだかとても高価な物っぽい。 「これを、持ってみてください」 「あの、俺本当にお金無いんですけれど」 「大丈夫、そんな物は必要ありません。その指輪は簡単に持ち主を選ばないのです」  ただ手に乗せるだけ。そう言われて手を掴まれて手の平にぽんと乗せられた。  途端に、手の平が温かく……徐々に熱くなっていく。焼き付きそうな熱さなのに、何故か俺の体は意志に逆らって動こうとしない。金縛りにかかったみたいだ。 「やはり、貴方が」 「何がですか! あの、これ熱くなって」 「それはただ一人の持ち主を探し、見つけたら決して離れません」  焦る俺の前で、占い師はとても妖艶に笑い、パンと一つ手を打った。  その瞬間、足下が怪しい光に照らし出され、目も開けていられないほどの風が俺と占い師を中心に吹き荒れる。腕で顔を庇って蹲りそうになる俺の手を、占い師がずっと掴んでいる。  何が起こっているのか全く分からないまま世界はぐるぐる回り出して、こんな酷い目眩を起こしたら倒れてしまいそうだとか考えて。  ただ手の中の指輪だけが、ずるずるっと手の平から指の方へと移動していくのを感じた。
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