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この世には、どれ程の美しい物が転がっているだろうか。それはほんの一握り程度でも、両腕に抱えきれない程度でもない。無限なのだ。
その無限にあるうちの一つが、命。
命──魂は実に美しい存在だ。皆様々な色と音、波動を持っている。そしてそれが散る際もまた、美しいものだ。刹那さと儚さと哀れさを抱いたまま天に消えて行く様子はまさに芸術。
愚かさ、純粋さ、堅実さ、皆一様に違う形で一様に美しい。
──遠い、遠い存在だった。
才能ある兄に愛される、美しい人だった。
何もかもが手の届かない輝かしい二人。
美しいその人は、今迄見てきた魂の美しさを優に超える程の輝きを持っている人だった。実に人間らしく、実に健気で謙虚な人。嘘偽りの無い笑顔を振りまいていた。
『健さん』
──いつからだったか。
彼女の魂から放たれる眩い程の輝きを、手探り求め初めていたのは。
ぐるぐる、ぐるぐると螺旋の様な道を走りながら求めていたのは。
そこでいつしか、はたと気づいた。
『鈴蘭』
その人を呼ぶ兄の優しい声音に、嬉しそうに笑顔を向ける彼女の表情が、陽炎のように揺らいでいてよく見えなかった。
気付いた。それは間違いなく"嫉妬"だった。
自分は、兄──健の妻であり、俺の義姉でもある鈴蘭さんに一目惚れをしてしまったのだと。
けれどそれに気付いた瞬間、駄目だと慌てて気持ちに上手く蓋をかけた。
兄も好きだし、義姉も好きだった。だから二人の仲睦まじい姿を見て憧れていたのもまた事実だったから。その姿を見ているだけで、俺は満足だった。
──しかし、その姿は突然の出来事により途絶える事になってしまった。
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