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兄の亡骸に縋り、泣き付く鈴蘭さんの姿はとても傷ましいものだった。その亡骸が焼かれる日まで側を離れず、枯れる事のない涙を流し続けていた。
──兄は発明家だった。
数日前に、良い作品が出来上がりそうだと離れにある小さな小屋で夜な夜な作業に没頭していたという。けれどそれが、それがいけなかったのだ。
今はまだ明治の夜。廃刀令は出たものの物騒さは変わらない。時代の変わり目というものはいつの世も、嘆き苦しむ人が多いのだ。
人々の屍を踏み躙りながら、時代というものは変化していくのだから。
そしてそんな世の中、人々が寝静まった静寂たる真夜中の明かりは目立つものだ。だから、嫌な奴等に目をつけられてしまった。
所謂、兄は強盗に合ったのだという。
なんとも不運な事か。ここは田舎な方だ。
騒いでも、中々人は駆けつけてくれない。
兄の試作品であろう物が無残にも壊されていたのを見た時は、あまりの哀れさと儚さから犯人達に怒りが湧き上がった。
けれどそれは、鈴蘭さんの今にもボロボロと頭から崩れ落ち、消えてしまいそうな姿を見た瞬間に、すぅっと冷めるように消えて行った。
──嗚呼、これは現実なんだ。兄はもういない。あの仲睦まじい幸せな二人の光景を見れないのだ。
そう思えば、胸に空洞が出来たかのように様々な感情がそこへこみ上げ、時間差で目には涙が溢れてきた。
その日は鈴蘭さんと二人で泣いた。
今は遠く天に登ってしまった兄を想い、そして兄を想う鈴蘭さんの悲しみを想い、喚き続けていた。
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