靴よ、飛べ

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「こうやって使うんだよ」  青年の声は優しかった。  青年は紐を少年の靴に起用に巻き付け始めた。 「こうすれば、一人でも沢山練習ができるだろ?」  紐が少年の靴と足首を繋いでいた。  少年は軽く靴を前に飛ばしてみた。  靴は飛び出すと、前の柵を越えた辺りで紐に引っ張られるようにして止まった。  散歩中の犬が前に進みたくても進めないのに似ているなと少年は思った。 「本当だ。すごいや」 「この紐はね、想像すればするほど、沢山の幸せを作りだすことができるんだ」 「すごい紐なんだね」 「そう、すごい紐なんだ」 「お兄さんは、紐をどういう風に使おうと思ったの?」  青年は再び少年の隣に腰掛けた。 「僕はね、紐の使い方を探しに公園に来たんだよ。 そうしたら君がいた」 「じゃあまだ使い方は決めてなかったんだね」 「……そうだね。決めてなかった」  青年は足を前後に大きく動かすと、ブランコをゆらゆらと漕ぎ始めた。  少年は靴を飛ばしては紐を手繰り寄せ、また靴を飛ばした。 「良かったら、その紐、君にあげるよ」 「え、いいの? お兄さんが幸せを見つけられなくなっちゃうよ?」  青年はブランコの動きに合わせて勢いよく前にジャンプした。  柵の手前で綺麗に着地をした青年は、ゆっくりと少年を振り返った。 「いいんだ。幸せの探し方なんていくらでもあるから」  青年は頭を指さしながら笑顔で言った。 「ありがとう。宝物にするよ」  少年は靴に結ばれた紐にそっと触れた。 「そろそろ帰ろう。お母さんが心配しているよ」  青年が言った。 「お兄さんもね」  少年が言った。 「そうだね。帰ろうか」  少年と青年はお互いの顔を見ながらくすりと笑い合った。 「幸せ、見つかるといいね」 「ありがとう。君も遠くへ飛ばせるといいね」 「うん。ありがとう」  少年と青年は、別々の方向へ歩いていった。                                    ―Fin―
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