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「何をしているの?」
少年が振り返ると、一人の青年が立っていた。
青年は真っ黒い服を着ていた。
少年はこの服装が、中学生や高校生が着る服だということを知っていた。
「靴を飛ばしていたんだ」
「そっか。靴を飛ばしていたんだね」
少年は頷くと、思い出したように靴を飛ばした。
靴は後ろに跳ね上がり、青年の目の前に落ちた。
少年は泣き出しそうだった。
「なるほど、練習をしていたんだね」
青年は少年に靴を渡すと、隣のブランコに腰掛けた。
「お兄さんは笑わないの?」
少年は青年に訊いた。
「君は笑われたいの?」
青年は少年に訊き返した。
少年は勢いよく、首を左右に振った。
青年は納得したように頷いた。
「君は笑われたくないはずだと思った。だから、僕は笑わないんだよ」
「でも、僕の友達はみんな笑うよ」
「それは……」
青年は困ったような表情になった。
少年は、まずいことを言ったのかもしれないと不安な気持ちになった。
「それは、僕にもどうしてか分からないんだ」
青年は前を向いたまま言った。
苦しそうな表情だった。
少年は青年が手に何かを持っていることに気が付いた。
「お兄さんは、何を持っているの?」
「これかい? これはただの紐だよ」
青年は手の中で紐をもてあそびながら答えた。
「何に使うの?」
青年は少年の顔を見返した。
青年は困ったような表情をしていた。
少年は、またまずいことを言ったのかもしれないと不安な気持ちになった。
青年は前を向き直し、紐をくるくると回し始めた。
「幸せになるためだよ。この紐を使えば、人は幸せになれるんだ」
「すごい紐だね」
「そう。すごい紐なんだ」
「どうやって使うの?」
蛇やミミズみたいに生き生きと動いていた紐が、ぴたりと動きを止めてしまった。
まるで魂を抜かれたみたいに、紐は力なく垂れさがった。
こんどこそ、怒らせてしまったかもしれないと、少年は泣き出しそうだった。
青年は立ち上がった。
少年の目の前まで歩み寄った青年は膝を地面につけてしゃがみ込んだ。
少年は拳を握りしめて、怒られることを覚悟した。
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