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クレーム
それから数日の後。
里香の店には再び瑞希が訪れていた。
「こんにちは魔女さん」
豆炭相手にじゃらしを振っていた里香は、それをカウンターの裏にしまってにこやかに出迎えた。
「あら、カフェのオーナーさんだったわね。その後はどう?」
「あの薬の効き目は抜群ね。薬を混ぜた飲み物を飲んだ途端、あの子は恋に落ちましたよ」
「その割には言い方に棘があるわね」
里香の言葉に瑞希はニコッと笑った。
目が笑っていないところに一抹の恐怖を感じつつ、里香は言葉の続きを待った。
一呼吸置き、瑞希は口を開いた。
「私じゃないのよ」
「というと?」
「運んで行ったアルバイトの女の子と恋に落ちちゃったのよ。あんな、何の取柄もない薄らぼんやりとした女に、あの子は突然告白したんですよ」
自分で雇っておいて酷い言い草もあった物だ、と里香は内心呆れる。
もちろん口には出さない。百倍からの文句が返ってくるに違いないからだ。
「飲み物を作ったのも薬を入れたのも私なのにどうして?」
「注意点その二を忘れているわ」
「その二……何でしたっけ?」
何のためのメモだよ、とこれも内心の言葉。
豆炭が呆れたようにうにゃーと鳴く。
「薬を混ぜた飲み物をターゲットが口にするとき、あなたが視界に入ってなきゃ」
「入ってたはず。だって、私はカウンターに立ってたし、彼女の背中が私の方を向いていたって事は、彼の視界に私も入っていたって事でしょう?」
「理屈で言えばそうだけれど、魔法の薬というのは人の意識の部分が大切なの。彼がきちんとあなたを見ていると思っていなくては、効き目なんて出ないのよ」
「そんな……」
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