クレーム

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「魔法は心に作用するものだから。彼の意識が大切だってレクチャーしたと思うけれど?」 「えーと……」  メモをパラパラとめくっていた瑞希は、あるところでぴたりと手を止めた。  気まずそうに里香を一瞬見た後、咳ばらいをしながらメモ帳を鞄の中に放り込む。 「誤魔化し方が下の下ね」  同意するとばかりに豆炭もにゃんにゃんと鳴いた。  飽きれている里香に、瑞希はズイッと詰め寄った。 「納得いかないわ。あんなブス、あの子に似合わないもの。薬のせいで、あの子が不幸になっちゃう。何とかしてよ」 「薄々感じてはいたけれど飛んだクレーマーね」 「私は二十万払ってるのよ。それはあの子を不幸にするためじゃないもの。何とかしてあげなきゃダメじゃない!!」 「幸せの尺度は人それぞれで……」 「あの子は、得体のしれない薬で間違った道を歩みそうになっているの。そうに決まってる!!」 「とうとう私の魔法薬を馬鹿にし始めたわね」  とんでもないのに当たっちゃったな、と言いながら、里香は棚からまた小瓶を一つ手に取った。 「ふむ、じゃあこれをどうぞ」 「これは……また薬?」 「惚れ薬の効果を無くす薬よ。タダあげるから持ってきなさい」 「ありがとう」  奪うようにその小瓶を手に取ると、瑞希は鼻息荒くそう言い残し店を出て行った。
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