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いらっしゃい
ドアベルの音が鈍く響いた。
思わず見上げると、ご丁寧に布が巻き付けてある。
店の中は薄い黄色の電灯に薄ぼんやりと照らし出されていた。ちょっと品のいいレストランなどで使われていそうな色の光だ。決して広くはなく、瑞希が五人も入れば身動きに相当苦労しそうな程度しかなかった。
いくつかの棚が壁に沿って並べられ、そこには小瓶や置物、アクセサリーなどが綺麗に並べられている。さらにそれだけでは無く、何に使うのかもよく分からないような枝や、骨のようなもの、磨いた石などが並べられている。窓は一つも無かった。
何やら漂っているお香の匂いと相まって、何とも神秘的な雰囲気を醸し出していた。
店の外とは明らかに雰囲気が違って、まとわりつくような気配も感じた。
単なる雑貨店じゃない、と瑞希は直感的に感じた。
「……凄い」
「いらっしゃい」
低く良く通る声が静かに瑞希を出迎えた。
立っていたのは、黒いぞろりとしたドレスに身を包んだ女性だった。
うねりのある髪は黒いが、その肌はチョコレート色。瞳も緑色をしている。
唇に塗られた真っ赤な口紅が怪しさを醸し出していた。
年齢は良く分からなかったが、怪し気な魔女のお婆さんという感じではなかった。外見的には、瑞希と同い年か年上に見える。その足元には一匹の黒猫がいて、じっと瑞樹を見つめていた。
「あなたが……」
自分で今から言う事が自分でも信じられない。
そう言う空気を含んだ沈黙を置き、改めて瑞希は口を開いた。
「本物の魔女?」
「いかにも。マジョリカ様よ」
そう言って、胸を張って見せる女性。
誰憚ることなどあろうものかと言わんばかりだ。
「……日本人に見えるけど?」
「まあ、商売ネームだもの。本名は真城里香よ。こういう店はね、非日常感が大切なの」
里香の言葉に、瑞希の中にふとした違和感が生まれた。
神秘の輝きが幾分濁ったようにも感じた。
「祖母がベルギー人とのハーフだったわね。そういう意味では、純粋な日本人ではないかも」
まあ、誤差の範囲よねと言いながら、里香は軽く肩を竦めて見せた。
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