惚れ薬

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惚れ薬

 里香が頷いて尚、たっぷり二十秒ほども時間をかけて黙っていた瑞希は、やがて一つ頷くと里香に向けて用件を言った。 「実は、店にいつも来る常連の男の子に一目惚れしてしまったんです」 「ほほう」  里香の顔がニヤつき、姿勢はやや前のめりになった。  豆炭はいつの間にかカウンターの上に移動していた。  にゃあ、と少し強く鳴く。  詰まらなさそうに体勢を戻す里香。  瑞希はそんなやり取りに目も向けず、話を続けた。 「向こうは多分私より随分若くって、学生さんっぽいんです。平日の昼間からお店に来ることもあるから、きっとそうです」 「なるほど名推理ね」  からかうような口調で里香が言うと、顔を赤くして瑞希は一つ頷いた。 「でも……」 「でも?」 「やっぱり自分からは言い出せないというか……」 「年の差が気になる?」  こくり、と小さく瑞希は頷いた。 「それに、私昔からちょっとシャイなところが……」  里香は呆れたように半笑いでそれを聞き流す。 「つまり……。その恋を成就させたいという訳ね」 「そうです」 「手段は問わない?」 「え、でも私シャイなんで……。やっぱり彼から告白してきて欲しいっていうか……」 「シャイだものねぇ」  小さくため息。それから壁際の棚に近づくと、その中から小瓶を一つ取り上げて瑞希に見せた。 「じゃあこれは?」  ガラス製の小さな瓶は、手の大きい者なら簡単にその中に握りこんでしまえるようなサイズだった。中には赤い液体が入っているのが見えた。 「これは……? 随分小さな瓶ですね」 「この中に入っているのは、人の心を振り向かせる魔法の秘薬よ」
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