惚れ薬

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 軽く瓶を揺すると、微かにとろみがあるのかゆらりと赤い液体が揺れ動く。 「というと?」 「惚れ薬、という事になるかしらね。俗っぽい言い方だけど」 「惚れ薬」  ベタかつ分かりやすいその名前は、瑞希が自分で呟いてみるといかにも心強く感じられた。 「これをほんの一滴。何かに混ぜて彼に飲ませれば、この人の心はあなたの物よ」  瑞希はジィッとその瓶を見つめたまま、何度か頷いた。 「気が引ける?」  里香の問いかけに、瑞希はフッと小さく笑って首を左右に振った。 「おいくらかしら」  その迷いなき眼差しに向けて、里香はブイサインを出して見せた。 「ズバリ、二十万」 「結構高いのね……」 「そうかしら。今からその人と恋を育んでいく時間と費用を思えば、安いと思うけど」 「確かに……」 「ぼったくりを心配する心は分かるけど、それなら切り良く百万要求するわよ。ほらほら、どーんと買っちゃって」  里香が煽れば煽るほど、瑞希の中では胡散臭さが加速していった。  甘い香りの最後に、何となく埃っぽい匂いを感じた。  溢れんばかりに感じたはずの神秘性は、もはや残りわずか。それとともに、瑞希の心の中にはインチキという言葉が浮かび上がってきていた。
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