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「それじゃ、何を映しましょうか?」
「じゃあ……高村君を」
「高村? 誰よそれ」
「私の好きな人」
なる程、と納得したように呟いた里香は、カウンターの裏から革製の小さな鞄を取り出してカウンター上に置いた。開けると、中には透き通る水晶玉が、それにきっちりはまる窪みにはめ込まれていた。
「厳重なんだ」
「そりゃもう、水晶玉は美しさが命だからね。ヒビ入っちゃダメ、汚しちゃダメで結構取り扱いが大変なのよ」
台座の上に水晶玉を置き、一緒に鞄に入っていた小さな香炉をその隣に置いた。蓋を開けて、中に火をつけた香を入れてまた蓋を被せる。少しスパイシーな香りが立ち上るのに、そう時間はかからなかった。
「じゃあ、そっち側でこの水晶玉を見つめてて」
「こんな感じ」
「そうね。それじゃ、高村君とやらをイメージしながら見ててね」
里香は水晶玉に両手をかざし目を閉じた。ゆっくりと、里香の指が動き始める。水晶玉を見つめている瑞希の目にも、水晶玉越しになったせいで奇妙に歪んで動くその指が見えていた。
頭のどこかがピリピリとするのを感じた。それと同時に瑞希の見る前でゆっくりと指が歪みを強め、そしてそれは瑞希の望んだ人物の顔へと変化した。
「高村君……」
「映った?」
「ええ、映った。笑ってるわ。何してるのかしら……」
「さあね、でもこれでわかったでしょう。魔法が嘘じゃないって」
水晶玉にかざしていた手を外すと、水晶玉に映っていた顔もスッと消えた。
「ああっ……。これだけ?」
「そりゃまあ、お試し版だもの。有料放送でもそうでしょ?」
「最近は無料でー、みたいなのもあるけれど……」
「残念ながら、それは今日ではないのよ」
そう言って、里香は肩を竦めた。
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