死亡宣告

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死亡宣告

 死んでる?てかアンタさっき自分は死んでないとか言わなかったっけ?津波は今自分が死んでるのか生きてるのか自分でさえわからないのだ。ひょっとして私なんかのドッキリに引っかかってるの?  津波はもう何がなんだか分からなくなっていた。彼女は男の両肩から手を離し部屋を見回した。もしかしたらこのキモい顔した自称天使の男はアスファルトに倒れている私を見つけて無傷で生きてたから、私にいたずらしようと私の部屋に監禁したのかもしれない!彼女は完全に錯乱してわけがわからなくなっていた。だからとにかくここから救われたいと、出せる限り声を張り上げて叫んだ。 「誰か助けて!こっから私を出して!」 「そんなに叫んだって無理だよ。だってここにはお前と俺しかいないんだぜ!」  津波はこの自称天使の言葉に心底ぞっとした。二人きりのこの部屋でサイコパスのこの男は私に乱暴して殺そうとしてると思った。そして彼女はこのわけのわからない状況から救われたかった。だから今度は男の首のつけねを締め殺しかねないほどの力で掴みながら叫んだのである。 「オマエ!いい加減にしろよ!出せよ!私をこっから出せよ!ふざけんなよ!人を死んでないとか死んでるとかわけのわかんないこと言って!オマエ私を助けてどうするつもりだったの?乱暴なした後で殺すつもりだったのかよ!」  いっそ殺してやる!私は死ぬため飛び降りたんだ。こんな奴に殺されるために飛び降りたんじゃない!津波はいっそ殺してやろうと男の首を絞めようとした瞬間だった。男が津波の両腕を掴んで彼女を投げ飛ばしたのだった。 「オメエがいい加減にしろ!わけのわからないこと言ってるのはオメエじゃねえか!おまけに人を殺そうとしやがって!さっきから俺の説明をちゃんと聞けって言ってるだろ!」   津波は男を見た。男は立ち上がり目を剥き顔を真っ赤にして彼女を見ている。男はゆっくりと津波の方へ向かってくる。いよいよ殺される!ついに全身が震えだした。津波は足で部屋の隅に逃げたがとうとう壁にぶつかった。もう行き止まりだ。 「で……どうするの?私を……こ……ろすの?」と男を上目遣いで見て震える声で言った。 「あのなぁ〜」と男は津波とのやり取りにグッタリしてしゃがみ込み独り言のようにこう呟いて、それから津波に見えるように胸に手を当てて彼女に言った。 「オマエも胸に手を当ててみ?心臓の音聞こえねえから」  心臓の音が聞こえない?津波は男の言葉で一気に現実に引き戻された。そんなわけないでしょ!だって私は自分の部屋でこうやって歩き回ってるじゃん!心臓が動いていない人間がどうやって動いてるのよ。津波はバカバカしいとは思ったが今の自分には自分が生きているか死んでいるかわからないのだ。だから津波はおそるおそる自分の胸に手を当ててみた。  自分の胸に触れた瞬間津波はその冷たい感触にぞっとした。心臓はピクリとも動いてはいない。彼女は音が聞こえるように手を胸に押し付けたがなにも響いてこなかった。 「わかったか?お前の体はもう死んでるんだよ。地面に叩きつけられてお前の体はただの肉になっちまったんだ!」  これほど分かりやすい死亡宣告はなかった。本庄津波は身をもって自分の死を知ったのである。息が上ずってくる。涙がまたこみ上げてくる。津波はまた胸に手を当てる。さっきと同じように肌は冷たく心臓はピクリとも動かない。喉元から感情が急激に溢れてくる。いつの間にか彼女は床にへたり込み号泣していた。  津波は涙がおさまると顔を上げて男の顔を見て言った。 「ゴメンね。私酷いこと言っちゃったね。あなたを変質者だと思ってた。私、自分でもわけわかんなくなってたから……。あなた本当に天使だったんだね。でも、前に私が死んでないって言わなかった?あれどういうことなの?」 「わかってもらえたら嬉しいよ。俺は別に大丈夫。死んだ人間が自分の死を認めたくなくて錯乱する事はしょっちゅうあるしな。ただ変質者呼ばわりされたことにはけっこう傷ついた……」 「ゴメン……」 「で、質問に答えるけど俺がお前が生きてるっていったのはお前の魂のことだよ。俺はお前が落ちた時に魂だけは救った。言っとくけど、お前を助けたくて助けた訳じゃないよ。単に仕事だよ。俺たちのな」
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