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『……嘘でしょ。まさかあの周一郎さんが、あんたみたいなちんちくりんな女と結婚するはずないじゃない!』
『背は低いし華は無いし、どう考えたって周一郎さんとは釣り合わないわ! 一体どうしたっていうの、彼は血迷ったのかしら!?』
先ほどの出来事を洗い流したくて、私はアパートに帰るなりお風呂場に直行した。
でも、いくら熱いシャワーをかけても、好きな香りの入浴剤を入れても、あの人に浴びせられた言葉は頭から離れてくれない。
初対面だというのに何て失礼なことを言うんだろうと怒りたくなる気持ちはもちろんあるけれど、目をつり上げながらそう叫んだ加茂さんの姿を思い出すと、それよりも悲しみや劣等感の方が強くなってしまう。
「……きれいな人だったなぁ」
ちらりと、お風呂場の壁に貼り付けられている鏡を覗いてみる。
そこにはいつもよりもっと冴えない自分の顔があって、私はがっくりと肩を落とした。
加茂さんの言葉を肯定するわけではないが、本当に伊奈さんはどうして私と付き合ってくれているのだろう。
前からなんとなくそんな疑問を抱いてはいたけれど、元恋人である加茂さんを見てしまったらその疑問はさらに強いものになった。
伊奈さんは性格に少々難があるとはいえ根は優しいし、仕事もできそうだし、何より見た目が完璧すぎるほどかっこいい。
最近はもうだいぶ見慣れてきたけれど、気を抜いている瞬間に彼の整った顔を間近で見てしまうと、未だにびっくりすることだってあるのだ。
そんな伊奈さんと平々凡々なこの私が付き合っているなんて、やっぱりおかしなことなのではないだろうか。考えれば考えるほど加茂さんの言い分の方が正しいような気がしてしまって、私は湯船の中でまたがっくりと項垂れた。
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