私たち、結婚します

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私たち、結婚します

「あ……いたいた! おーい、芳乃ー!」  ぶんぶんと大きく手を振りながら近づくと、ベビーカーを押しながら辺りをきょろきょろしていた芳乃がこちらに気付いて手を振り返してくれる。そして、私の隣に立つ伊奈さんにぺこりと会釈した。 「ごめんごめん、この子がぐずるからちょっと手間取っちゃって。待った?」 「ううん、全然! それより、わざわざ来てくれてありがとう! あの、こちらが伊奈さんです」 「初めまして、芳乃さん。桜さんとお付き合いしています、伊奈周一郎と申します」  よそいきの極上スマイルを浮かべて、伊奈さんが丁寧に挨拶をする。  それにつられたせいか、芳乃が珍しくどぎまぎした様子で深々とお辞儀をする姿を見て、私は思わず笑ってしまった。  伊奈さんからプロポーズを受けて、一ヶ月が経った。  この一ヶ月の間は、二人で私の両親に挨拶をしに行ったり、伊奈さんのご家族にも改めて結婚の報告をしたりと、何かとバタバタした日々を過ごしていた。  そして今日は、一番の親友である芳乃にも彼を紹介しようと思って集まることになったのだ。子どもを連れて車で来るという芳乃に合わせて、街中から少し外れた場所にある大きなショッピングモールでランチをする予定である。 「伊奈さん、いつも通りで大丈夫ですよ。芳乃にはもう全部話してますから」 「あ? なんだ、早く言えよ。それじゃ、どっか店入ってゆっくり話すか」  つい今しがた見せた紳士的な振る舞いはどこへやら、伊奈さんは私の言葉を聞くなりころりと態度を変えた。  その見事な豹変っぷりに芳乃は一瞬目を丸くしたけれど、すぐ可笑しそうに笑って私に耳打ちをする。 「ふふっ、聞いてた通りね。こりゃあんたなんか簡単に騙されるわ」 「うん、そう思うでしょ? あ、ご飯何がいい? みぃちゃんはもう食べれるんだっけ」 「あ、この子のは家から持ってきたから大丈夫。私あのお店がいいな、ちょっと個室っぽくなってる和食屋さん」 「和食屋さん……あ、一階のとこね! じゃあそこにしよっか」  ベビーカーを覗き込むと、芳乃の一人娘であるみぃちゃんがすやすやと寝息を立てていた。  前に芳乃の家にお邪魔したときはまだ小さかったのに、髪の毛もだいぶ生えて腕や足もむちむちだ。  その可愛らしい姿に思わず顔を綻ばせながら、少し居づらそうにしている伊奈さんを先頭に歩き出した。
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