第一章

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 ところがそうは問屋が卸さない。  小説なんかと比べれば、漫画の文字数は圧倒的に少ないのだ。  もちろん、だから絵があるのだが、  文字と違ってパッと眺めりゃ理解できる。  あっという間に読み終わり、  ――なんでだよ! もう終わり?  などと思った時には、時計の分針はちょうど真下を向いていた。  それから残された三十分を、彼はやっぱり地べたに寝転び、  空を見上げて過ごすのだ。  そうして三日目、涼太は丸椅子を両手で抱え、  その台座部分と顎の間に単行本を挟んで現れる。  ――その場所に居続ければ、何をしていても構わない。  大声を出すなど、人の迷惑になるようなことさえしなければ、  何をしてたっていいと言われていて、  となれば椅子に座ってたって構わない筈だ。  だから彼は、兄の部屋にあった漫画を十数冊持ち込んで、  早速椅子に腰掛け一巻から順に読み始めた。  するとこの二日間が嘘だったように、あっという間に時間が過ぎる。 「どうせ、まだだろう」  なんて思いながら時計を見ると、とっくに一時間が過ぎ去っているのだ。  漫画は確かに面白かったが、  実際、いつまでもこんな場所では読みたかない。  だから慌てて椅子の上に漫画を重ねて、  彼は逃げるようにその場から去ったのだった。    その時偶然、最後に読んでいた一冊が、地面に置かれたままになっている。  もちろんそのままだったとしても、  翌日には涼太が見つけることになるはずだった。  ところがその後十分くらいで、若い看護師がフラッと裏庭に現れた。  彼女は辺りをキョロキョロと見回し、すぐに漫画本に気が付いた。  そのまま本のところに歩み寄り、その場にちょこんとしゃがみ込んで、  拾い上げた本のページをパラパラっとめくる。  しかしさほど興味がわかないのだろう……すぐに表紙を閉じて、  彼女は大儀そうに立ち上がる。  それからチラッと上を見上げ、  本を手にしたまま病院内へ消え去ってしまった。
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