第一章

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 翌日になっても、そのまた次の日も、一切口を開こうとしない。  それどころか、食事も満足に取ろうとしないから、  周りが次から次へと必死に声をかけたのだった。 〝ちゃんと食べないと、病気に障るわ〟 〝きっとよくなるから、もう少しの辛抱よ〟 〝病気は気からって言うでしょ、だから元気を出して〟 〝ね、がんばりましょう〟  なんてことを一生懸命に口にした。  そしてその度、優衣は一切反応せずに、無視という態度で拒絶する。  ――きっとよくなるって、いったい、いつまで待てばいいの?  ――本当に、わたしの病気は治ってくれるの?  そんな疑問が溢れ出し、  とは言え聞いたところで答えはきっと変わらない。  そうして三日目、美穂が病室に現れると、  優衣はタオルケットを頭まで被り、ベッドの上で動かない。  そんな優衣に向け、彼女はいつもの調子で告げたのだった。 「ずっと寝てばかりはよくないから、一階のテラスで、日光浴でもしたらど  う?」    そうして、ナースステーションで車椅子を借りてくると、    美穂は続けて言おうとしたのだ。    すると優衣がいきなり上半身を起こし、  そのままベッドから降りようとする。  当然、優衣が受け入れたんだと理解して、  美穂はほっと胸を撫で下ろしたのだ。  ところが次の瞬間、 「起きてたら寝なさいって言われて、寝てたら今度は身体に悪いの!? わた  しはいったいどうすればいいのよ!」  きっとここまで大きな声を、  美穂はこれまで耳にしたことがなかっただろう。 「ねえ! 答えてよ! わたしはいったい、どうしたらいいのよ!!」  そう言って美穂の目の前に立ち、彼女の顔を睨み付けた。 「もう! いい加減にしなさい!」  気付けば声になっていた。 「よく聞きなさい! あなたはね、わたしたちの言うことを、ただ黙って聞い  ていればいいのよ!」  もちろん、〝そうして欲しい〟という意味だったのだ。    そんな願望が勢いよく溢れ出て、    声となった途端に自分の言葉に愕然とした。  
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