9人が本棚に入れています
本棚に追加
「おいおい。約束だっただろう。それにお前たちは植物の頭を切っては、飾ってるじゃねぇーか。何も躊躇うことはねぇーだろ」
僕は黙って拳を握りしめる。確かに彼の言うとおりだった。それでも僕は、そう簡単に行動に移す決意が出来ないでいた。
「いいか、お前がやってくれなきゃ、俺はある意味で犬死だ。子孫も残せねぇー植物にはなりたくねぇんだよ」
頼むよぉという懇願の言葉に、僕は唇を噛み締める。一旦、家に入るとハサミを持って彼の元に戻った。
「さよならを言うんじゃねぇぞ。俺はこれからもずっと生き長らえていくんだからよぉ」
そう言って、白い頭を重たげに揺らす。僕は涙を目に溜めてうんうんと頷いた。
「ありがとよ。一思いにやってくれ。お前を信じてる」
僕は優しく葉を撫でてやると、ハサミを茎に差し入れてぱつんと切る。
茎と綿毛だけになった彼は、もう喋ることはなかった。
僕は約束通り、見通しの良い丘に上がると綿毛に息を吹きかけて飛ばしていく。
遠く、遠くへと、風に流されていく綿毛の群れを見送りつつ、来年の春の訪れを僕は心待ちにするのだった。
最初のコメントを投稿しよう!