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その日から僕は、たんぽぽの花が綿毛に変わるまでを見守り続けた。そのさなかで、彼(?)が猫の毛に付いてここに運ばれてきたのだということも、話して聞かせてくれたのだ。
「空をふわふわと浮くのは気持ちがいいぞ。まさか猫の毛に絡みついて、こんな狭い場所に根を張るとは思っても見なかったけどな」
人んちの庭を狭いなどと愚痴を言うのは、正直ムッとしてしまう。それでも彼の変化を見守り続けている僕は、何だか愛着が沸いてしまっていた。
それでも春も半ばを過ぎた頃には、とうとう黄色い花は見る影もなくなり、白いふわふわした綿毛に様変わりしていた。
「お別れの時だな」
そう言って彼は少ししんみりとした声音で僕に言った。
僕は寂しい気持ちを抱えつつ、シャベルを片手に早速掘り起こそうとした。にもかかわらず、彼は「待て待て」と言ってそれを止めた。
「俺の体は何メートルと長い根が張っていて、動くことが出来ねぇんだ。俺の頭を持って行ってくれ」
その一言に僕は全身が凍り付いたように動けなくなってしまう。たとえ植物だろうと、こうして会話してしまった以上は一部を切り取るだなんて、とてもじゃないが出来そうにない。
躊躇している僕に、彼は抗議するように葉を大きく動かした。
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