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希望の職種は公務員
「マーダの神殿によく……ふももっ!」
ホイットニーが来客を出迎えようと開いた口が完全に塞がれた。塞いだのは勿論、セーファスの右手だ。
「大長老?2年もやってるんですからいい加減学習してください。ここはマーダの『転職相談所』です。神殿ではありません」
セーファスは目を吊り上げてホイットニーの耳元でそう叱りつける。そして再び満面の笑顔を作った。セーファスの前にいるのは20過ぎくらいの女性だ。
「あの……大丈夫ですか?」
女性が心配そうな表情でホイットニーを見つめる。
「全然。いやはやご心配をおかけして申し訳ありません。本日は転職のご相談でしょうか?」
セーファスは何か言いたげなホイットニーを力づくで制止しつつ、明るい声で女性に応対する。
「はい。今の仕事をいつまでも続けるわけにはいかないんで……」
困り果てた顔で女性はそう発する。
「ええと、とにかく座ってお話を聞かせてもらえませんか?」
セーファスは穏やかな表情でそう語りかけると掌を差し出し、面談室へと女性を促した。ホイットニーと女性は先に面談室へと入りテーブルをはさんで腰をかける。セーファスはテーブルの上に載っていたラジカセなどを軽く片付けた後、給湯室へと足を運んでいった。
「名は何と申すのじゃ?」
「如月さつきと申します」
「今はどんな職業についておるのじゃ?」
「ガールズバーの店員です」
如月がホイットニーの質問に答えているところにセーファスは熱い緑茶と茶菓子、そして冷えたおしぼりを2人分持って入ってきた。2人の会話を聴いたセーファスの視線が鋭くなる。
「なるほど。セーファスの好きそうな店じゃのう。そしてお主がなりたいのは、どんな……うぎゃあっ!」
厳かな口調で語り続けるホイットニーの手の甲にバシャーンと緑茶がこぼされた。
「いやぁ手が滑りました。申し訳ありません」
セーファスは如月にそうばつが悪そうに謝罪をしたあと、
「大長老、相手はお客さんです。ちゃんと敬語使って!何度言われたらわかるんですか?それに私が好きそうなとか勝手に決めないで下さい!」
と小声でホイットニーをたしなめた。
「う、うぅ……あ、如月様のおなりになられたい御職業はどういったお代物で候か?」
手の甲をおしぼりで冷やしながらホイットニーはそう問いかける。
「私、ええと……公務員になりたいんです」
「それはどういった理由からでございますからですかの?」
「安定した収入が欲しいからです。それ以外に理由はありません」
ちらりちらりとセーファスの顔色を窺いながら発せられたホイットニーの問いかけに対し、女性は小声で、しかしはっきりと答えた。
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