希望の職種は公務員

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「いいんですか?大長老。不純な動機に基づく転職は悲劇を招きますよ?」  セーファスは自らが抱く懸念を素直に示したが、 「確かに今迄、転職の失敗例は沢山ある。じゃが、このお嬢さんの場合はうまくいく可能性はあるわい」  ホイットニーはそう言い切り、如月の顔をじっと見つめた。 「お主は今までの20数年の人生についてどう思っておる?」 「やり直せるものならやり直したい。生まれたところから、いや、そもそも違う親から産まれたい」 「そう思って当然じゃろうな。しかし、過去を変えることはできぬ」 「残酷ですよね。不公平ですよね」  如月がそう吐き捨てたとき、ホイットニーは深く頷いた。 「そうじゃな。残酷じゃ。じゃがその残酷な目に遭ってしまったからこそ、できることはある。お主がやるべきことはそれではないかな?」 「私だからこそ、できること……」  如月はそうつぶやき、そしてうつむいた。 「もしお主が公務員になり、かつ幸せに生きたいというのなら、それを探す修行が欠かせぬ。覚悟はあるかの?」 「……あります」  如月は暫しの間考え込んだ後、その重い口から答えを出した。 「良い目をしておる。セーファスよ、杖を持って参れ!」 「はっ!」  セーファスは深く頭を下げると、立てかけてあった樫の杖をホイットニーに手渡した。 「くわぁぁぁぁっ!」  セーファスが杖に向かって念力を送ると、七色のきらびやかな光が如月の頭上に降り注いだ。 「よし、これでお主には公務員になる道が開かれたぞ。本来、お主の修行には少なくとも3年はかかるが、特別にわしの術で期間を1ヶ月に短縮しておいたわい。修行期間はかなり厳しいものとなるが、頑張って励みなされよ」 「はい。ありがとうございます」  そう礼の言葉を残して如月が立ち去ろうとしたとき、 「お待ちください」  セーファスが声をかけた。 「何でしょう?」 「転職の施術料、33000円になります」 「えっ?」  如月は戸惑いを隠せず、思わず声を上げた。 「無料じゃないんですか?」 「はい。施術につきましては有料にさせて頂いております。公務員試験の予備校の受講料が20万円近くであること、確実に転職が可能であることを考えると、良心的な値段設定になっていると思われますが……」 「でも、いきなり言われても私、持ち合わせが……」 「クレジットカード決済も承っております。月々275円の120回払い、金利手数料は当事業所が負担いたします。お安いでしょう?」  自信たっぷりの顔でクレジット決済を勧めるセーファスを前にして、如月の顔がほころんだ。 「それなら払えそうです。お願いします」  如月はそう言い、財布から取り出したクレジットカードをセーファスに手渡した。 「でもここを選んでよかった。ヒーリングサウンドも心地よくて、本心から色々話せた気がします」 「えっ?ヒーリングサウンド?」  クレジットカードの明細書を切りながら、セーファスは思わず訊き返した。 「ほら、私が話しているときにかけてくれてたじゃないですか。ウミネコの声や、大きな波の音。それを聴きながら思ったんです。大自然の前では私の恥の感情も、怒りも、悲しみも、すごくちっぽけなんだなぁ、って。なんかね、腹の底で思ってたことを日本海に面した崖の上から思いっきり叫んだあとのような気分なんですよ」  今日一番の穏やかな顔を見せながら語る如月。その後ろには、 「そうじゃろう?」  と小声でつぶやきながらセーファスにしたり顔を見せるホイットニーの姿があった。  その後、如月は心理カウンセリングを受けたり、法律の勉強をしたり、剣術の訓練を行ったりと、1ヶ月に渡って猛烈な鍛錬を積んだ。そしてついに、『公務員』への道を切り開いたのである。
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