経験は、光となる

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経験は、光となる

「繁華街のガールズバー系列店、風営法違反で一斉摘発。少女への搾取の実態が明らかに」  朝刊の一面をこの文言が大きく飾ったのは、如月の施術から半年後のことだった。 「大長老!如月さんが大仕事を成し遂げましたね!」 「うむ。やってくれたの」  ホイットニーもセーファスも嬉々としてこの文面を眺めていた。  ホイットニーが転職させたのは公務員は公務員でも警察官、しかも少年犯罪や風俗営業などを専門に扱う生活安全課配属の警官だった。 「ガールズバーの内情を知るあの娘の力は大きかったじゃろうな。しかし、あの娘の本領発揮はこれからじゃ」 「え?如月さんは大仕事を成し遂げたばかりですよ?」  セーファスの問いに対し、ホイットニーは首を横に振った。 「確かに組織的犯罪は摘発された。じゃがその後、そこで働いていた未成年の娘たちは、どうなるのかの?全員が全員、安全で幸せな家庭に戻れるという保証はあるのかな?」  ホイットニーの問いかけに対し、セーファスは黙り込んでしまった。 「こういうときに最も力になるのは良識でもなければ法律でもない。経験なのじゃ。壮絶な荒波をかい潜ってきたあの娘の経験こそ、今助けを必要としている者の光になる。わしはそう思うがの。そしてその経験を困っている者に分け与えることこそ、転職の神様があの娘に与える光なのじゃ」 「如月さんにはこれから保護された娘さんの幸せのために獅子奮迅の活躍が求められるわけですね」 「そうじゃな。でも大丈夫じゃ。あの娘はそれができるだけの力を秘めているからの。いま助けを求める者を救い、そして傷ついた過去の己を救い出す力じゃ」 「なるほど。ところで、どうして警察官だったんですか?公務員で、こういった未成年の少女の力になれる仕事って他にもあると思うんです。福祉課の職員とか、教師とか。その中で警察官を選んだ理由って何だったのかな?と思って」 「なぬ?どうして警察官だったかとな?それはじゃな……ええとその……」  セーファスが呈した素朴な疑問を前にホイットニーの歯切れが急激に悪くなった。そのとき、玄関のドアが開いた。
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