プロローグ

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プロローグ

「しかし、本当にいつになったら戻れるんでしょうね」 「そうじゃな」  ホイットニー神官は助手のセーファスの切実な疑問にテレビを見ながら適当に答える。 「大長老!ちゃんと話聞いてるんですか?もうこっちの星に飛ばされて2年になるんですよ!」 「そうじゃな」  ホイットニーはまたも生返事をした。  ホイットニーとセーファスは2年前まで龍の星で転職の神殿を営んでいた。そこで150年以上もの間神官を務めていた大長老ホイットニーは膨大な知識量、分析力、観察力、人の素質を見抜く慧眼を持ち、あまねく人々から畏敬の念を持たれていた。ところがあるとき龍の星に異変が起こる。星の数カ所に亀裂が生じ、そこに存在する一部の人々、建物などが異空間へと飛ばされてしまったのだ。かくして2人は地球、しかもこの日本に飛ばされたのである。馴染みのない土地に飛ばされた2人は日銭を稼がねばならず、ここ「マーダの転職相談所」を始めた。そのできごとからはや2年。セーファスの努力も虚しく、まだ地球から龍の星へと戻る手はずを見つけられずにいる。 転職相談所は有償であり、相談料とホイットニーによる施術料だけが2人の生活の糧だ。 「しかし地球も良いのォ。このまま地球にずっと住んでもいいくらいじゃの」  ホイットニーはそう呟きながらテレビの中で起こっている殺人事件に釘付けになっている。セーファスのことなど眼中にすらないようだ。セーファスはテーブルの上にあるリモコンを取り出し、ムッとした表情で電源を切った。 「何じゃ?良いところじゃったのに……」 「ちゃんと話聞いてるんですか?まったく。こんなんだから龍の星にいつまで経っても帰れないんですよ!分かってます?」  セーファスは尖った口調でホイットニーをそうたしなめる。 「別にいいじゃろ?そこまで龍の星にこだわらなくても。地球にこんなに面白いものがあるとは思わなかったわい。ほれ」  ホイットニーはセーファスから再びリモコンを奪い取り電源をつけると、 「佐川さん。あなたはこうして偽のアリバイを作り、ご主人を殺したんです」  と、敏腕刑事が人妻を追い詰めていく様子が映し出されていた。 「お主が電源を勝手に切るから肝心のアリバイ工作の説明が飛んでしまったじゃろう」  ホイットニーはあからさまに不機嫌な様子でセーファスにそう言うと、セーファスの目がつり上がった。 「お言葉ですがこのテレビ、大長老がうちの売り上げをちょろまかして買ったものですよね?しかもそれだけじゃありません。時代劇チャンネルのも、ミステリーチャンネルも、大長老が勝手に契約したんですよね?私が知らないとでもお思いですか?」 「う、うぐっ……」  セーファスの問いかけに対してホイットニーは押し黙ってしまった。ホイットニーの目が泳いでいる中、テレビでは嫌疑をかけられた佐川が 「私は殺してないわよ。そんなトリックを実行したという証拠はないでしょう?」  と、逆に刑事に詰め寄っている。 「そ、そうじゃ。わしが勝手に契約したという証拠は、無いじゃろう?」  ホイットニーは思い付いたかのようにそうシラを切った。しかしセーファスは首を横に振り、 「とぼけてもすべてお見通しです。この契約書、身に覚えがないとは言わせませんよ!」  と言ってミステリーチャンネルの契約書をつきつけた。  テレビでは刑事が佐川に車内精算された切符を見せ、そこに佐川の指紋がついていることを明らかにしていた。佐川は苦虫を噛み潰したかのような表情をしている。まさにたった今セーファスの視線に射すくめられているホイットニーのようだ。 「全く。もうちょっと考えてください」 「う、うむ……」  セーファスにきつい指摘をされてホイットニーが完全にしょげてしまったそのとき、正面のドアが開く音が聞こえた。
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