凍った鯛と俺

1/1
前へ
/21ページ
次へ

凍った鯛と俺

「ねぇ!!鯛さばける!??」 いきなりのオバハンのLINEに何事かと毎度、突拍子もなくて驚かされる…まぁ、それにも少しずつ慣れてきて、すぐに返信できているマメじゃなかった俺自身にも、ある意味で自分で驚いてはいるが… 「さばけねぇよ!どーした!?」という返事にオバハンから写真が届く…立派な冷凍の鯛だった。 どうやら地元の神社で毎年やってる秋まつりのビンゴ大会で、トムトムが鯛を当てて帰ってきたらしい。せっかく当たったのにオバハンはさばけず…あたふた状態…いくら器用で意外と料理上手な俺でも鯛はさばいた事がない… 数時間後…オバハンは発泡スチロールの箱に入ったデカい鯛を持って店に現れた。 「だから、無理だよ?!隣の店にも聞いたけど、ちょっと無理だってさ」俺の店の隣は、韓国料理&焼き肉をやってる。一応、マスターにも聞いてはみたが…忙しいようだったので頼むのは難しいようだった。 「とりあえず、冷凍庫に入れさせて!!大きくて入らないんよ…我が家も冷凍庫、今はパンパンだし…なんとかするからさ」と勝手に店の冷凍庫に鯛をのけるオバハン…もはや自分の家かのように…まぁ、それに対しても俺は慣れてきてしまったのか、もはや反対もせず見ていただけだった。 ひとまず冷凍庫に納める事が出来て、くつろいでいたオバハンといつも通り話していると…突然、ネンジくんが現れた。 「すみませ~ん…こちらに冷凍の鯛があると思うのですが、受け取りに来ました~」配達業者のような口調で明るく入ってきた彼を見て、オバハンは笑いながら急いで鯛を冷凍庫から出す。 「え!?さばけるの?」こんな若い子が鯛をさばけるという事とお手上げ状態で困ってたところに明るく現れたヒーローのようで、なんだかカッコよく見えた。 何やら材料とか準備して、後日また鯛めしや汁を用意して持って来てくれると頼もしい会話が聞こえる…こういう所が俺にもあれば、モテるんだろうか…いや、俺はモテるんだから、もっとモテるんだろうか… ネンジくんは、すぐに鯛を持って帰ってしまったが、オバハンはすごく嬉しそうだった。少しでも会えた事やまた会える約束ができたからなのか、こういうのを見ると彼女が欲しいなぁ…と独り身は寂しいと感じてしまう。 頼れる男子ってとこやカッコいいとこを彼女に見せれるって良いなぁ…俺ができるのは…ダーツぐらいで…アカリ姫は、いつか俺のダーツを見に店に来てくれると毎月のように言いつつも…来ていない…けっきょく、あの夏から1度も会えずじまいだ。冷凍の鯛よりも俺のハートが凍りついてしまいそうだぜ…なんてアホな話をしながら、俺の酒をご機嫌に飲んでるオバハンが目の前にいるから、まだ気は紛れるのだが… 今週末は、2周年の店のハウス!!いつもより人が集まる事を想定して、準備や確認をしなければ!と鯛問題が解決して落ち着いたオバハンが企画や進行、準備物をノートに書いていってくれているのであった。 ある意味、俺もあの冷凍の鯛と一緒で誰かにさばいて調理してもらわないと美味しく食べれないやつで…いつも本当にオバハンに助けられている…あんなカッコよく現れて颯爽と帰っていった男の子を見た後だから、情けなくて感謝の言葉は伝える気になれないけど、きっとオバハンに上手く調理されてる今年の2周年は素敵なハウスになるような気がした。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加