ダーツをする理由

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ダーツをする理由

「はぁ…おかわり…」 オバハンのグラスがため息と共に置かれる。 店としての一大イベントは一段落し、俺は当日に来れなかった人やリピーターも来てくれる日々に、まだまだ余韻に浸れるほどハイテンションなんだが…オバハンは、ハウスの日のテンションとは、うって変わって様子がまたもおかしい…どうせいつもの恋わずらいだろう…ほっとけば治る?というより、なんだかんだ言って気付いたら解決してるんだから、掘りさげないでおこう。 毎度毎度とオバハンだけの相手をしている暇はない…それに他のお客さんがいる時は、オバハンもノリ良く話して笑っているし、そんな気にする事もないのかもしれない。 にしても…気にならない訳でもない。 「どうしたよ?また何かあったんか?ここ何日か元気ないやん?から元気というかさ…ダーツもハウスの時の勢いが無くなってるぞ?」他の客も帰って、さっきのため息をつきながら置いたオバハンのグラスに、特製の俺の美味しい酒を作って渡した。 「それがね…ダーツをする理由が時々なんか…あれ?って思ったりするんだよね…ダーツは楽しいよ!?ここに来る人たちも楽しいし、すっごく楽しいはずなの…だけどね、どこかで1人で悩みたくないから…不安になりたくなくて怖いから…ただ寂しいだけなんじゃないかとかとか考えちゃってね…」 静かに俺の特製のお酒に口をつけ、なんだか深刻そうな顔をしていた若にゃんは、いつものただのオバハンの笑顔で俺の方を見た。 「すまん!すまん!いつもの悪い癖だね(笑)なんか重い話を呟いちまったぜ!これ、なかなか美味しいやん♪マルも腕上げたね~♪新作かね??」 明らかに返答に困っている俺の空気を読んで、素の自分の発言が重すぎたと気付き、若にゃんは話を変えようとしてくれていた。 俺は本当に口下手というか、俺は話し上手でも聞き上手でもない…気の利いた言葉の1つでも出れば、カッコいいダーツバーの頼れるマスターって感じなんだろうけど…昔から、なかなか思ってる言葉を表現したり発言するのが苦手だ… 「よし!投げようか♪あーだこーだ言うてたって仕方ない!せっかく来たんなら、投げるしかないよね(笑)」 自分のダーツを大事そうに見つめて握りしめ、カウンター席から立ち上がる姿を何も言えずにいた…オバハンは俺に聞いて欲しいのか聞いて欲しくないのか…話したいのか、話したくないのか…正直、こういう事を考えるの自体が苦手なんだが…何か伝えたかった。 いつものように試合を申し込んできて、さっき呟いた事を無かったかのように必死に集中して投げようとしている若にゃん。 自分のターンが来て、思わず俺はただ思った事を口にした。
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