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首筋に口をつけて、押しつける。息を詰め、口唇の熱とやわらかさだけを伝えるためのものだ。
黄金の砂浜を焼き尽くす太陽、あるいは暗闇のなか、北の角部屋で燃ゆる松明の火……エットーレはあらゆる熱を想起する。
そのどれもに我が身を巣食う肉体の悪魔は負けない。
イレネオが「うぅっ」と呻いた、うなじに汗が流れて伝う。舌に甘美な痺れと塩味。
無垢な羽を思わせる口づけを繰り返し唇で耳たぶを食む。苦しげな声が甘みを帯びてくる。呻きから、喘ぎへ。イレネオの喉からせり上がる。「……ぁ……うっ」と、また。
エットーレは馬乗りになりながらも、その左手は再び足の間に狙いを定めて――。
明らかな刺激にイレネオが薄目を開ける。けっして正視せず、目尻で見るような目付きは、どうにか相手の姿をとらえることができた。
色の白い体を火照らせたエットーレは全身から妖気を放っていた。彼が纏うものは何なのだろう? あらゆる男を蠱惑する眼差し……
「泣くほどいいか」
吐息混じりの湿り気がある声は情欲を隠そうともしない。そのあけすけな物言いにイレネオは羞恥に身を焼かれ、胸を激しく掻き毟られた。
頭にかかった靄と視界がぼやけた原因が涙の膜だと悟る。泣くほど……? イレネオは不快感をあらわにして眉を寄せたが、より大粒の涙がこぼれただけだった。
「………そうだと言ったら? 図に乗るのか? どうなんだよ」
「案外よく分かってるな」
そっちがその気なら、ベッドにまったく不釣り合いな喧嘩でも買ってやろうとイレネオは思った。焚き付けてやれば食ってかかってくるかもしれないと。だが、エットーレは挑発のとおり、調子づく始末だ。
「もちろん、お望みを叶えさせてやる。それだけ」
余計なおしゃべりは、これでおしまい。エットーレからイレネオへそんなふうにキスをする。獣まぐわいのものとは違い、小鳥が餌を啄む仕草を真似た繊細な口づけ。
重ねた唇を離す間際、エットーレはイレネオの下唇を口で挟み込んで悪戯に引っ張った。おかげでいやらしく、ぽってりと腫れている。
「ふざけるな……」
濡れて潤んだ口でたまらずイレネオが悪態をついた。
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