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「いいよ。好きに使って」
次にエットーレはまったく予想外の行動をとった。今度は自らイレネオの下になったのだ。ところで好きに使っていいとは妙だ。
まるで自分を道具も同然の扱いをする。うつ伏せではしたなく四つん這いになった姿は動物的なしなやかさがあった。
後ろから男を貫き、自分に包み込まれてみろとでもいうのか? 己の知り得ぬ未知の世界、官能的な肉欲に満ち満ちた行為。
白昼の嵐。
ほっそりとした白い首から広い背中へ。そして筋肉質な臀部には艶やかな丸みがある……
鼻先を寄せると湿った毛先からエットーレの汗の匂いがする。すぐ熱くなるとはこういうことか。
覆い被さり鼻を利かせたイレネオにエットーレが「擽ったいな」と妖艶に笑った。その瞬間に胸の奥で疼きを予感する。
「いつもどおり、女にするようにすればいい」
すでにエットーレを隠すものは何もなかったが、未だイレネオは何ひとつとして彼を暴けてはいなかった。相手は自ら進んで身ぐるみを剥ぐ男だ、衣服などただの表皮に過ぎない。
ここでイレネオは虚を衝かれた。彼は女に徹するとでも言うのか? たしかにおぞましさすら感じる色気を放つエットーレは娼婦にも淑女にも……? 容易く化けてしまえるのだろう。しかし彼が本気でその役を買って出るだろうか?
相手はまだベッドの上で大人しく鳴りを潜めている。先ほどまでの捕食のような性急さがまるで嘘のよう。
これはどういう風の吹き回しだ? と、イレネオが茹だりはじめた頭を捻る――いいや、違う。ふと思い至った考えに体の芯が火照って震える。
彼は貫かれるのではない、自らが包み込むことで内外から支配しようとしているのだ。
恥も外聞もなく熱しやすいと認めたエットーレは、身も心も熟れている。その身を差し出して男を誘い込む遣り口はどの女よりも長けていた。
イレネオはなにか言うべきなのか考えあぐねいていた。仮に文句でも注文でもつけてやればエットーレは従順に言いつけを守るだろう。
期待と得体の知れない興奮でイレネオの気が大きくなる。まだ陽も高く明るいなか、二人の影が重なっていく……
数え切れないほどのキスをした。
いい大人が年甲斐もなく痕をつけていき、その都度エットーレの肌が色濃く鬱血する。求めるよりも手探りの状態がつづく……
経験値に反して――イレネオの場合は、もちろん異性間に限る――ひどく拙いものだ。
今までの女とは違う、筋肉質な肉体に触れ、互いを抱えあう。
「初めてだ……」
「ああ。それがなんだ?」
エットーレなら疾うに分かっているであろうことを今更になって白状するも、やはり彼は訳知り顔で含み笑うだけだ。
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